マンションの相続税評価が変わった|2024年からの区分所有補正率を解説
2026年7月30日

2016年当時、「タワーマンションを使った相続税の節税」に国が歯止めをかけようとしている、と報じられました。その見直しはすでに実施され、2024年(令和6年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した分譲マンションから、新しい評価ルールが適用されています。
ここで最初に押さえておきたいのは、新ルールの対象はタワーマンションに限らないという点です。「居住用の区分所有財産」=いわゆる分譲マンションが広く対象になります。ご自宅のマンションや、相続で引き継いだ区分所有物件も例外ではありません。
いつから、何が変わったのか
国税庁は令和5年9月28日付で「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を定め、令和6年(2024年)1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産に新しい評価方法を適用しています。
従来は、マンションの相続税評価額を「区分所有権(家屋部分)=固定資産税評価額」と「敷地利用権(土地部分)=敷地全体の価額×敷地権の割合」で計算していました。この方法では、所在階・築年数・敷地持分の小ささが十分に反映されず、市場で売買される価格と相続税評価額が大きく離れるケースが生じていました。とくに高層階の住戸ほど乖離が大きくなりやすく、そこが「タワマン節税」と呼ばれた背景です。
新ルールの中身|区分所有補正率
新しい評価方法では、従来どおり計算した価額に「区分所有補正率」を掛けて評価額を求めます。補正率は次の3ステップで計算します。
ステップ1:評価乖離率を求める
評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220
- A:一棟の区分所有建物の築年数 × △0.033(1年未満の端数は1年に切り上げ)
- B:総階数指数(総階数÷33。小数点以下第4位切捨て、1を超える場合は1)× 0.239
- C:専有部分の所在階 × 0.018(地階は零階としてCは零)
- D:敷地持分狭小度(敷地利用権の面積÷専有部分の床面積)× △1.195
築年数が古いほど評価乖離率は下がり(A)、総階数が高い建物ほど・所在階が上の住戸ほど上がります(B・C)。またDはマイナスの係数なので、一戸あたりの敷地持分が小さいほど評価乖離率は大きくなります。戸数の多い高層マンションで補正が効きやすいのは、この構造によるものです。
ステップ2:評価水準を求める
評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率(評価乖離率の逆数)
ステップ3:区分所有補正率を判定する
| 評価水準 | 区分所有補正率 | 評価額への影響 |
|---|---|---|
| 評価水準 < 0.6 | 評価乖離率 × 0.6 | 評価額が上がる |
| 0.6 ≦ 評価水準 ≦ 1 | 補正なし | 従来の評価方法のまま |
| 1 < 評価水準 | 評価乖離率 | 評価額が下がる |
見落とされがちですが、この通達は評価額を上げるだけの仕組みではありません。評価水準が1を超える(=評価乖離率が1未満の)場合には補正率が1未満となり、評価額は下がります。あくまで「市場価格との乖離を是正する」ためのルールです。
国税庁の計算例で確認する
国税庁が示している自用(賃貸していない自宅)の計算例を追ってみます。条件は、築年数27年・総階数11階・所在階3階・専有部分の面積60.00㎡・敷地利用権の面積21.00㎡です。
- A = 27年 × △0.033 = △0.891
- B = (11 ÷ 33 = 0.333)× 0.239 = 0.079
- C = 3階 × 0.018 = 0.054
- D = (21.00㎡ ÷ 60.00㎡ = 0.350)× △1.195 = △0.419
評価乖離率は 2.043、評価水準は 1 ÷ 2.043 = 約0.489 となり0.6を下回るため、区分所有補正率は 2.043 × 0.6 = 1.2258 です。これを従来の評価額に掛けます。

家屋部分は400万円から490万3,200円へ、土地部分は1,050万円から1,287万900円へ。合計では1,450万円が1,777万4,100円となり、およそ1.23倍になりました。11階建ての3階という決してタワーマンションではない住戸でも、これだけ動くという点は知っておきたいところです。
新ルールの対象にならないマンション
次のものには、この通達は適用されません(従来の評価方法によります)。
- 構造上、主として居住の用途に供することができるもの以外のもの(事業用のテナント物件など)
- 区分建物の登記がされていないもの(一棟所有の賃貸マンションなど)
- 地階を除く総階数が2以下のもの(低層の集合住宅など)
- 一棟の区分所有建物にある居住用の専有部分が3室以下で、そのすべてを区分所有者またはその親族の居住の用に供するもの(いわゆる二世帯住宅など)
- たな卸商品等に該当するもの
保有・売却する立場で押さえておきたいこと
売主・所有者の実務としては、次の3点を意識しておくと判断がぶれません。
1.相続税評価額が上がっても、売却の損得とは別の話です。評価額はあくまで相続税・贈与税を計算するための金額で、実際にいくらで売れるかを示すものではありません。「評価が上がったから売るべき」と短絡的に結びつけないことが大切です。
2.相続したマンションを売るなら、取得費加算の特例を確認しましょう。相続税を納めた人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却した場合、納めた相続税額のうち一定額を取得費に加算でき、譲渡所得税が軽くなることがあります。適用要件は国税庁の案内でご確認ください。
3.貸家・貸家建付地の評価や小規模宅地等の特例も、新しい算式で求めた価額が基礎になります。賃貸に出している区分所有物件でも、居住用の専有部分であれば本通達の対象です。
相続税額そのものは、遺産全体の構成・法定相続人の数・各種特例の適用によって大きく変わります。具体的な税額の判断は税理士などの専門家にご相談ください。
よくある質問
Q. 対象はタワーマンションだけですか?
A. いいえ。「居住用の区分所有財産」=分譲マンション全般が対象です。上記の適用除外に当たらなければ、低層階の住戸でも対象になります。
Q. 2023年までに相続した物件も対象になりますか?
A. 対象は令和6年(2024年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した財産です。それ以前に取得したものは従来の評価方法によります。
Q. 新ルールで評価額が下がることもあるのですか?
A. あります。評価水準が1を超える場合、区分所有補正率は1未満となり評価額は下がります。築年数が経過し、敷地持分が比較的大きい低層のマンションなどが該当しやすい形です。
Q. 補正率は自分で計算できますか?
A. 国税庁が「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」を用意しています。必要な情報は、登記事項証明書(築年月日・総階数・所在階・専有部分の面積・敷地権の割合)と固定資産税の課税明細書からおおむね揃います。
Q. 一棟すべてを所有している場合はどうなりますか?
A. 区分所有者が一棟のすべての専有部分と敷地のいずれも単独で所有している場合、敷地利用権に係る区分所有補正率は1が下限とされています(区分所有権に係る補正率に下限はありません)。
マンションの相続税評価は、2024年を境に考え方が変わりました。相続や生前贈与を見据えて保有・売却を検討しているなら、まずはご自身の物件がどのくらいの補正を受けるのかを把握したうえで、売却する場合の手取り額とあわせて比較してみてください。最新の取り扱いは必ず国税庁の公式サイトでご確認ください。








