定期借地権付きマンションの売却|残存期間で決まる売りやすさ
2026年8月25日

定期借地権付きのマンションを売ろうとすると、「借地は買い手が付きにくい」と言われることがあります。実際には、所有権のマンションと同じように仲介で売買され、住宅ローンを使って買う人もいます。売りにくさの正体は土地を持っていないこと自体ではなく、買主の側に付く条件が、借地権の残存期間によって年々きつくなっていくことにあります。
ここでは、売主が査定を依頼する前に自分で確かめられることを、借地借家法と住宅金融支援機構の公表資料をもとに整理します。数字は手取り(売却額から費用と税金を引いた金額)で考える前提で並べています。
まず、定期借地権付きマンションは今も新しく供給されている
不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年のまとめ」(2026年1月26日発表)によると、2025年の首都圏では定期借地権付き物件が1,502戸供給され、過去最多だった2008年の1,281戸を上回りました(同研究所は定期借地権付き物件を通常の発売戸数とは別に集計しています)。用地価格の高騰で所有権のマンションが手の届きにくい価格になるなか、供給側があらためて選んでいる方式だということです。
つまり、この先も同種の物件が市場に出続けます。売主として押さえるべきは「借地だから不利」という一般論ではなく、自分の物件の残存期間が、買主にとってどういう意味を持つかという一点です。
売りにくさの核心は、買主の住宅ローンが残存期間で頭打ちになること
ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。借地上の住宅は住宅ローンが組めない、という説明を見かけますが、それは正確ではありません。
フラット35は借地でも使えるが、期間の上限が二重にかかる
住宅金融支援機構は【フラット35】の利用条件として「敷地が借地の場合」のページを設けており、担保・借入期間・借地権取得費の3つの要件を満たせば利用できる場合がある、と明記しています。そのうえで借入期間について、普通借地権なら通常どおりだが、定期借地権または建物譲渡特約付借地権の場合は「通常の借入期間と借地権の残存期間を比較して短い年数」が上限になる、と定めています。
通常の借入期間の上限は「80歳-申込時の年齢」と35年の短いほう。ここに残存期間という3つ目の物差しが加わるわけです。さらに見落とされがちなのが下限で、【フラット35】は借入期間が15年(申込本人または連帯債務者が満60歳以上なら10年)を下回ると、そもそも借入対象になりません。
この2つを組み合わせると、40歳の買主が【フラット35】を使う場合、残存期間ごとの上限は次のようになります。
| 借地権の残存期間 | 40歳の買主が組める上限 | 売主側で起きること |
|---|---|---|
| 45年 | 35年(残存期間は効かない) | 所有権とほぼ同じ土俵で戦える |
| 35年 | 35年 | ここが分岐点。以降は年々短くなる |
| 30年 | 30年 | 月々の返済額が上がり始める |
| 20年 | 20年 | 現金比率の高い買主に寄っていく |
| 14年 | 利用不可(15年未満のため) | 【フラット35】の買主候補が外れる |
民間金融機関の住宅ローンは各行が独自に条件を定めており、借地に対する姿勢も残存期間の見方も異なります。ここは断定できないので、候補になりそうな金融機関の取扱いは、売り出し前に仲介会社を通じて実際に確認してもらってください。
残り30年を切ると、同じ価格でも買主の負担感が変わる
借入期間が縮むと、同じ借入額でも月々の返済額は上がります。買主が「返済額でいくらまで」と考えて物件を探している以上、これは実質的な値下げ圧力として売主に返ってきます。所有権のマンションでは築年数が価格の目安になりますが、定期借地権付きでは築年数と残存期間が別々に効いてくる。築年数を基準にした売り時の考え方をそのまま当てはめると判断を誤ります。
査定を頼む前に、契約書で3か所だけ確かめる
手元にあるのは、購入時に受け取った土地賃貸借契約書(または地上権設定契約書)と重要事項説明書です。全部を読む必要はなく、次の3点だけ拾えば売りやすさの見当が付きます。
1.どの定期借地権か——居住用マンションで使えるのは一般定期借地権
借地借家法の定期借地権は3種類あり、居住用のマンションで使えるものは限られます。事業用定期借地権(同法23条)は「専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く)」が対象で、分譲マンションには使えません。ネット上の解説で両者が混同されていることがありますが、自宅マンションの契約書に事業用定期借地権と書かれていることは通常ありません。
| 種類 | 存続期間 | 居住用 | 期間満了時の建物 |
|---|---|---|---|
| 一般定期借地権(22条) | 50年以上 | 使える | 原則として取り壊して土地を返還 |
| 事業用定期借地権(23条) | 10年以上50年未満 | 使えない | 原則として取り壊して土地を返還 |
| 建物譲渡特約付借地権(24条) | 30年以上 | 使える | 地主が相当の対価で建物を買い取る |
一般定期借地権は、契約の更新をしない・建物の築造による期間の延長をしない・建物買取請求をしない、という3つの特約を公正証書等の書面で定めたものです(22条)。「50年たったらまた更新すればいい」という説明は成り立ちません。ここを誤解したまま買主に説明すると、契約直前で話が止まります。
2.残存期間は、築年数ではなく借地権の設定日から数える
残存期間は「50年-築年数」ではありません。起点は借地権を設定した日で、分譲マンションでは着工前に設定されているのが普通ですから、竣工までの1〜2年ぶんは先に消化されています。契約書に書かれた設定日と満了日を、そのまま買主向けの資料に転記できる形で控えておいてください。年数ではなく「◯年◯月◯日まで」と日付で示すのが、後々いちばん揉めません。
3.地上権か賃借権か——地主の承諾が要るかどうかの分かれ目
借地借家法2条は、借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しています。同じ定期借地権でも、この2つで売却手続きが変わります。
賃借権型は、借地権を買主に引き継ぐのに地主の承諾が必要です。承諾が得られない場合に備えて、同法19条は「借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾しないとき」は、裁判所が承諾に代わる許可を与えられると定めています(借地非訟)。制度としての逃げ道はあるものの、申立てから許可までは時間がかかり、売買のスケジュールには乗りにくいのが実情です。一方、地上権型は土地に対する物権であり、同条の対象外です。実務上は承諾を要さずに移転できるとされ、そのぶん売却手続きは軽くなります。
なお、定期借地権付きマンションの多くは分譲時に譲渡の取扱いが定型化されており、承諾料の額や手続きがあらかじめ決められています。契約書に「譲渡承諾料」「名義書換料」の条項があるかを先に確認してください。国土交通省の解説も、定期借地では譲渡承諾料などを不要とする運用が定着している、と説明しています。この2つが「不要」と書かれていれば、それ自体が売り材料になります。
承諾料や名義書換料は、手取りからどう引かれるか
承諾料が必要な契約だった場合、その負担は売主に回るのが一般的です。国税庁のタックスアンサーNo.3255「譲渡費用となるもの」は、譲渡費用の一つとして「借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など」を挙げています。つまり譲渡所得の計算上は差し引ける費用であり、手取りへの影響は支出額そのものより小さくなります。
逆に、固定資産税のように資産の維持・管理のためにかかった費用は譲渡費用になりません。定期借地権付きの場合、土地の固定資産税は地主の負担で、区分所有者が払うのは建物ぶんだけというケースが一般的です。ランニングコストの内訳が所有権と違う点も、買主への説明材料になります。仲介手数料や印紙税を含めた費用全体の見取り図はマンション売却の諸費用・税金を、譲渡所得の計算そのものはマンション売却と確定申告を参照してください。
もう一つ、購入時に預けた保証金がある場合は返還請求権が誰に移るのかを契約書で確認します。金額が大きく、決済時の精算方法によって手取りが変わる部分です。ここは売主だけで判断せず、仲介会社と地主(または管理会社)に事前照会してもらってください。
満了時の扱いを説明できないと、買主は最後で降りる
買主が本当に気にしているのは、50年後に自分か相続人が何を負担するのか、です。一般定期借地権では、期間満了時に借地人が建物を取り壊して土地を返還するのが原則とされています(国土交通省の解説)。分譲マンションでは取り壊し費用を積み立てる仕組みが用意されていることが多く、修繕積立金とは別に「解体準備金」などの名称で徴収されている例があります。
同じ解説では、原状回復に代わる柔軟な選択も増えており、建物を無償譲渡して存置する特約などが有効とされている、とも述べられています。自分の物件がどちらの設計になっているかは、管理規約と分譲時のパンフレットに書かれています。ここを売主が把握しているかどうかで、買主の安心感はかなり変わります。
あわせて、借地権が第三者に対抗できる状態かも確認しておきます。同法10条は、借地権の登記がなくても、借地上に借地権者名義で登記された建物があれば第三者に対抗できると定めています。分譲マンションであれば通常は満たしていますが、買主から質問された際に説明できるようにしておくと話が早く進みます。
「所有権の何割」という言い方は、査定の役に立たない
国土交通省の定期借地権の解説には、定期借地住宅の価格イメージとしてマンションは土地所有権住宅価格の80%前後という記述があります。ただしこれは新築分譲時の水準を示した目安であり、掲載時点の調査に基づくものです。中古として売るときの価格をこの割合で説明することはできません。
理由は単純で、所有権のマンションは築年数だけが古くなるのに対し、定期借地権付きは築年数と残存期間が同時に減っていくからです。同じ「築20年」でも、残存期間が35年ある物件と18年しかない物件では、買える人の顔ぶれがまったく違います。査定を依頼するときは、価格の相場を聞く前に「残存期間◯年で、どの層に売れる想定か」を仲介会社に説明させてください。そこに具体的な答えが返ってこない会社は、この物件種別の経験が乏しいと考えてよいと思います。
買主と仲介会社から必ず聞かれること
残りの期間が20年を切りました。もう売れないということでしょうか。
売れないわけではありません。住宅ローンの期間が短くなるため、自己資金の比率が高い買主や、居住期間を限って考えている買主に対象が移っていきます。ただし買い手の層が狭くなるぶん、売り出しから成約までの期間は長めに見込んでおくのが現実的です。
地主に「売ります」と伝えるのは、いつが適切ですか。
承諾が必要な賃借権型であれば、媒介契約を結ぶ前後、遅くとも売り出し前には仲介会社から地主(または地主の窓口となる管理会社)へ照会してもらうのが安全です。承諾料の有無と金額、手続きにかかる日数を先に確定させておかないと、買主が決まってから条件が動きます。
地代が値上げされる可能性は、買主にどう説明すればよいですか。
借地借家法11条は、租税の増減や経済事情の変動などにより地代が不相当になったときは、当事者が将来に向けて増減を請求できると定めています。ただし一定期間は増額しない旨の特約があれば、その定めに従います。契約書に地代の改定条項があるかどうかをそのまま示すのが、いちばん誠実な説明になります。
買主が使うローンによって、売却価格を変えるべきでしょうか。
価格を先に動かすより、残存期間で組める借入期間の目安を売り出し資料に載せておくほうが効きます。買主が自分で計算できる状態にしておけば、内見のあとに「思ったより返済額が高い」と離脱されるのを防げます。
相続で取得した定期借地権付きマンションです。何から手を付けますか。
残存期間の確認が最優先です。相続登記を済ませないと売却の手続きに入れませんが、それと並行して満了日と承諾料の条項を押さえておくと、その後の判断が早くなります。残存期間が短い物件ほど、動き出しの遅れがそのまま条件の悪化につながります。
結局、売主がやるべきことは3つに絞られる
定期借地権付きマンションの売却は、特別な裏技があるわけではありません。①契約書から満了日を日付で確定させる、②地上権か賃借権か、承諾料が要るかを確かめる、③満了時の建物の扱いを管理規約で押さえる——この3つを売り出し前に済ませておけば、買主の質問にその場で答えられます。借地物件の商談が途中で止まる原因のほとんどは、価格ではなく「売主も仲介会社も答えられない」ことです。
そして、残存期間は待っているあいだも減り続けます。売るかどうか迷っている段階でも、満了日だけは先に確認しておくことをおすすめします。
※制度の内容や取扱いは改正・変更されることがあります。借地借家法の解釈は法務省、【フラット35】の利用条件は住宅金融支援機構および取扱金融機関に、最新の内容をご確認ください。








