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修繕積立金が安いマンションは売りにくい?国交省の目安との比べ方

2026年8月22日

大規模修繕中のマンションと修繕積立金を考えるイメージ

「お宅のマンション、修繕積立金が安すぎますね」。査定に来た仲介会社の担当者から、そう言われたことのある売主は少なくありません。言われたほうは、月々の請求額を見ながら「そんなに安いだろうか」と首をかしげます。

この会話がかみ合わないのは、売主が見ている「月々いくら払っているか」と、担当者が念頭に置いている「国の目安」が、そもそも別の数字だからです。比べる土俵を合わせないまま値下げの話に進むと、必要のない譲歩をすることになります。

ここでは、国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月策定、令和6年6月改定)を実際の条文どおりに読み解き、売主が売り出し前にどこまで確かめておけばよいのかを整理します。

まず、「安い」と言われた数字が何と比べられたのかを確かめる

ガイドラインが示している目安は、次の表のとおり「円/㎡・月」という専有面積あたりの単価です。一方、売主が毎月見ているのは「1戸あたり何円」という請求額です。単位が違うので、そのままでは比較になりません。

さらに厄介なのは、単位を㎡あたりにそろえても、なお一致しないことです。理由は次の章で説明しますが、ガイドラインの目安は「今月の請求額」を見るための物差しではなく、「長期修繕計画の全期間をならした平均額」を見るための物差しだからです。ここを取り違えたまま「うちは目安を大きく割っている」と早合点している例を、実務ではよく見かけます。

もうひとつ、比べる相手として持ち出されやすいのが、国土交通省の令和5年度マンション総合調査の実額です。同調査では、駐車場使用料等からの充当額を除いた月/戸当たりの修繕積立金の額は平均13,054円(充当額を含む総額の平均は13,378円)でした。参考にはなりますが、これは戸当たりの実額であって、専有面積も建物の規模も条件をそろえていません。ガイドラインの㎡単価と、総合調査の戸あたり実額は、別々の物差しです。混ぜて使わないでください。

ガイドラインの目安は、月々の請求額ではない

目安の正体は、計画期間全体をならした㎡単価

ガイドラインが定める「計画期間全体における修繕積立金の平均額」は、次の式で計算します。

Z=(A+B+C)÷X÷Y

  • A:計画期間当初における修繕積立金の残高(円)
  • B:計画期間全体で集める修繕積立金の総額(円)
  • C:計画期間全体における専用使用料等からの繰入額の総額(円)
  • X:マンションの総専有床面積(㎡)
  • Y:長期修繕計画の計画期間(ヶ月)

注目してほしいのはAとCです。すでに貯まっている残高(A)と、駐車場使用料などから修繕積立金会計へ繰り入れる分(C)が、分子に加わります。つまり、毎月の請求額(Bの元になる数字)だけを専有面積で割った値は、ガイドラインが見ている数字より必ず小さく出ます。

実際に計算するとどれだけ差が出るか

数字を入れてみます。地上12階建・建築延床面積8,000㎡・総専有床面積5,600㎡(70㎡×80戸)・計画期間30年のマンションで、計画期間当初の残高が4,000万円、計画期間全体で集める修繕積立金が2億3,000万円、専用使用料等からの繰入が5,000万円だったとします。

  • 毎月の請求額から単純計算すると……2億3,000万円 ÷ 30年 ÷ 80戸 ÷ 12か月 = 1戸あたり月約7,986円。70㎡で割ると約114円/㎡・月
  • ガイドラインの式に当てはめると……(4,000万+2億3,000万+5,000万)÷ 5,600㎡ ÷ 360か月 = 約159円/㎡・月

同じマンションで45円の開きが出ました。請求額だけを見て「114円しかない」と判断するのと、正しく159円と算出するのとでは、担当者との会話も、値下げに応じるかどうかの判断も変わります。ABCの3つの数字はいずれも長期修繕計画に記載されていますから、手元に計画さえあれば売主自身で計算できます。

目安は建物の規模ごとに違う。「200円が基準」ではない

ガイドラインは、実際に作成された長期修繕計画366事例を集計し、階数と建築延床面積の区分ごとに目安を示しています。平均値だけでなく「事例の3分の2が包含される幅」が併記されているのが特徴です。

地上階数/建築延床面積事例の3分の2が包含される幅平均値
20階未満/5,000㎡未満235円~430円/㎡・月335円/㎡・月
20階未満/5,000㎡以上~10,000㎡未満170円~320円/㎡・月252円/㎡・月
20階未満/10,000㎡以上~20,000㎡未満200円~330円/㎡・月271円/㎡・月
20階未満/20,000㎡以上190円~325円/㎡・月255円/㎡・月
20階以上240円~410円/㎡・月338円/㎡・月

下限だけを並べても、170円から240円まで70円の開きがあります。とくに小規模(5,000㎡未満)の建物は下限235円・平均335円と、他の区分より一段高い水準です。工事量がまとまらず単価が下がりにくいためで、ガイドライン本文でも「一般的に建物の規模が大きくまとまった工事量になるほど、施工性が向上し、修繕工事の単価が安くなる傾向」と説明されています。20階以上の超高層は、特殊な足場が必要になることなどから最も高い区分です。

先ほどのモデル(建築延床面積8,000㎡・20階未満)は「5,000㎡以上~10,000㎡未満」に当たるので、幅は170円~320円。算出した159円はこの下限を割っている、という読み方になります。

機械式駐車場があるなら、目安の側に加算する

見落とされやすいのがここです。機械式駐車場がある場合は、自分のマンションの数字を上げるのではなく、比べる相手である目安のほうに加算します。加算額は、機種ごとの1台あたり月額修繕工事費に台数を掛け、総専有床面積で割って求めます。

機械式駐車場の機種1台当たり月額備考
2段(ピット1段)昇降式6,450円/台・月117事例から算出(5円単位で表示)
3段(ピット2段)昇降式5,840円/台・月
3段(ピット1段)昇降横行式7,210円/台・月
4段(ピット2段)昇降横行式6,235円/台・月
エレベーター方式・垂直循環方式4,645円/台・月
その他5,235円/台・月屋外・屋内、地上・地下等で個別性が強い

先のモデルに3段(ピット2段)昇降式が20台あれば、5,840円×20台÷5,600㎡=約21円/㎡・月。目安は「191円~341円(平均273円)」に上がります。加算を忘れると目安を低く見積もり、「足りている」と誤って安心することになります。

ただし、駐車場の維持管理・修繕工事費を駐車場使用料収入で賄うこととし、管理費や修繕積立金と区分して経理している場合は、この加算は不要です。自分のマンションがどちらの経理かは、総会資料の収支報告で確認できます。

下限を割っていても「直ちに不適切」とは書かれていない

ここは声を大にして言いたいところです。ガイドラインは、目安の使い方についてこう明記しています。修繕積立金の額が幅に収まっていないからといって、その水準が直ちに不適切であると判断されることになるわけではありません、と。目安は建物の規模以外の変動要因(形状、立地、仕上げ材や設備の仕様、区分所有者のニーズなど)を考慮したものではないからです。

実際、下限を割っていても説明のつくケースはあります。

  • 直近で大規模修繕工事を終えたばかりで、計画期間の残りに大きな支出が控えていない
  • 総会で増額がすでに決議されており、計画上は次年度から水準が上がる
  • 駐車場使用料からの繰入で実質的に賄えている

逆に言えば、下限を割っている理由を1行で説明できるかどうかが、売主にとっての分かれ目です。説明できれば単なる事実の一つで済みますが、説明できないまま買主に指摘されると、値下げ交渉の材料として一方的に使われます。

なお3つ目の「繰入で賄えている」には注意が必要です。ガイドラインは、実際に集められている金額を上回る繰入額を見込むことは避けるべきとし、とくに駐車場使用料は稼働率によって金額が大きく変動する可能性があると釘を刺しています。繰入頼みの計画は、駐車場の空きが増えた時点で崩れます。

買主が本当に見ているのは「今いくら」ではなく「これからいくらになるか」

段階増額積立方式が47.1%を占める

令和5年度マンション総合調査によれば、現在の修繕積立金の積立方式は、均等積立方式が40.5%、段階増額積立方式が47.1%。完成年次の新しいマンションほど段階増額積立方式の割合が高くなっています。つまりいま積立金が「安い」マンションの多くは、安いまま据え置かれる前提ではなく、将来上がる前提で設計されているということです。

そして同調査では、計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションが36.6%、不足の割合が20%を超えるマンションが11.7%ありました。管理組合が「管理に関して取り組むべき課題」の第1位も「修繕積立金の積立金額の見直し」(36.2%)です。買主が警戒するのは、この「予定どおりに上げられないリスク」のほうです。

令和6年6月に加わった、0.6倍~1.1倍という目安

この点について、国土交通省は令和6年6月7日、ガイドラインを改定して「段階増額積立方式における適切な引上げの考え方」を加えました。内容はシンプルです。均等積立方式とした場合の月あたりの金額を基準額とすると、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内とする、というものです。

段階増額積立方式で国が示す引上げの幅を示した棒グラフ。均等積立方式とした場合の月額を基準額100とすると、計画の初期額は60以上、計画の最終額は110以内。
均等積立方式とした場合の月あたりの金額を基準額とし、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内とする考え方(令和6年6月改定で追加)。

この幅が思ったより狭いことは、ガイドラインが従来から載せている段階増額のイメージ図と突き合わせると分かります。築後30年に必要な修繕工事費が戸当たり522万円のとき、均等積立方式なら月14,500円。これに対し段階増額の例は、修繕積立基金36万円を徴収したうえで初年度は月6,000円、5年ごとに3,000円ずつ上げて26~30年目に月21,000円という設計です。基準額14,500円に対して初期額は約0.41倍、最終額は約1.45倍にあたります。世の中でよく見かける増額計画は、それだけ振れ幅が大きいということです。

売り出し前に長期修繕計画を開いて、初期額と最終額が基準額の何倍かを見ておくと、買主から質問が来たときに慌てずに済みます。ガイドラインは、この考え方は工事費高騰等を踏まえた大幅な引上げを制限するものではない、とも補足しています。

一時金と借入れという第3の道

積立方式には、修繕時に一時金を徴収する方式や、金融機関から借り入れることを前提とした方式もあります。ガイドラインは、こうした将来の負担増を前提とする方式について、増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足する事例も生じている、と留意を促しています。総会議事録に一時金の話が出ているなら、買主は必ずそこを読みます。

隠しても、重要事項説明で必ず表に出る

宅地建物取引業法施行規則第16条の2は、区分所有建物の売買における重要事項説明の対象を列挙しています。修繕積立金に関わるのは次の号です。

  • 第六号:当該一棟の建物の計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときは、その内容及び既に積み立てられている額
  • 第七号:当該建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額
  • 第十号:当該一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容

積立金の月額も、これまでに積み上がった残高も、修繕の実施履歴も、契約前に買主へ渡ります。売主が伏せておける情報ではないという前提で動くのが正解です。同じ理由で、管理費や修繕積立金の滞納も買主側に伝わります(滞納分は買主に承継されるため、売却前の精算が原則です。詳しくは管理費滞納は買主にも請求される|マンション売却前の精算の実務で整理しています)。

そうであれば、指摘される前に自分から出すほうが得です。長期修繕計画・直近の総会議事録・修繕履歴・積立金残高の4点は、媒介契約を結ぶ時点で仲介会社に渡してしまいましょう。

売主から実際に出てくる質問

積立金を上げてから売ったほうが高く売れますか。

増額は総会の決議事項で、売主ひとりの意思では動かせません。売却スケジュールに合わせて上げてもらうのは現実的ではないうえ、増額直後は「月々の負担が増えた直後の物件」として見られることもあります。上げることより、いまの水準の説明がつく状態にすることを優先してください。次回の総会で見直しが議題に上がっているなら、その事実自体が買主への説明材料になります。

長期修繕計画が10年以上見直されていません。売却前に何かできますか。

令和5年度マンション総合調査では、長期修繕計画を作成している管理組合は88.4%、そのうち「5年毎を目安に定期的に見直している」が63.2%、見直しを行っていないマンションが3.7%でした。見直しが止まっている場合、計画上の必要額そのものが古い工事単価に基づいている可能性があります。売主ができるのは、管理組合または管理会社に見直しの予定を確認し、その回答を書面で残しておくことくらいです。ただし「見直し予定を確認済み」と言えるだけでも、何も答えられない状態とは印象が違います。

目安より安いぶん、いくら値引きすればよいのでしょうか。

買主側は、月額の差に自分が住むつもりの年数を掛けて値引き幅を組み立ててくることがあります。仮に月5,000円の差だとすれば、10年で60万円という具合です。売主も同じ計算を先にしておくと、根拠のある要求と、そうでない要求を区別できます。そのうえで、仲介手数料や譲渡所得税まで含めた手取りで判断してください(費用と税金の全体像は中古マンションの売り時と高く売るコツにまとめています)。値引きに応じるかどうかは、この手取りベースで決めるのが筋です。

積立金の水準は、管理計画認定制度の審査にも関係しますか。

関係します。国の管理計画認定制度の認定基準には、修繕積立金の水準に関する項目が含まれており、ガイドラインの目安(幅の下限値)が参照されています。マンション長寿命化促進税制も、この下限値を下回る金額から上回る金額へ引き上げたことが要件のひとつです。認定と売却の関係は管理計画認定制度とマンション売却|認定は売主単独では取れないで詳しく扱っています。

売り出し前に、この順で確かめる

最後に、手を動かす順番だけまとめます。

  1. 長期修繕計画を取り寄せる。管理組合または管理会社に依頼します。総会資料に添付されていることもあります。
  2. Z=(A+B+C)÷X÷Y を計算する。ABCはすべて計画に記載があります。月々の請求額で代用しないこと。
  3. 階数と建築延床面積で区分を選び、目安の幅と平均値に照らす。機械式駐車場があり、その修繕費を駐車場使用料で区分経理していないなら、目安に加算する。
  4. 幅の下限を割っていたら、その理由を1行で書けるか試す。書けるなら、その1行を仲介会社に渡す。
  5. 書けないなら、値下げの前に見直しの予定を確認する。そのうえで、想定される値引き幅を月額差×年数で自分で見積もっておく。
  6. 長期修繕計画・総会議事録・修繕履歴・積立金残高を、媒介契約の時点でまとめて渡す。重要事項説明でどのみち出る情報です。

修繕積立金が安いこと自体は、売却を止める理由にはなりません。買主が身構えるのは、金額そのものではなく、その金額について誰も説明できないという状態のほうです。数字の出どころを押さえておけば、交渉の主導権は手元に残ります。

※本記事の数値・要件は2026年8月22日時点で国土交通省の公表資料により確認したものです。ガイドラインは概ね5年程度ごとに見直しが検討されるとされています。最新の内容は国土交通省の公表資料をご確認ください。

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