中古マンション市況データの読み方|レインズの3つの数字の使い分け
2026年8月21日

「中古マンションの価格が過去最高を更新」というニュースを見た数日後に、仲介会社から提示された査定額が去年より低かった――マンション売却の相談では、この食い違いがよく持ち込まれます。どちらかが嘘をついているわけではありません。同じレインズの同じ月のレポートに、性格のまったく違う「㎡単価」が3つ載っているからです。
この記事では、東日本レインズ(公益財団法人東日本不動産流通機構)が毎月公表している「月例速報マーケットウオッチ」を実際に開き、売主が自分の売り出し価格を決めるために、どの数字をどう使えばよいかに絞って読み方を整理します。数字はすべて公表資料そのままで、比率などを当編集部で計算した箇所は明示します。
同じ月のレポートに、㎡単価が3つ並んでいる
2026年7月度(2026年8月10日公表)の首都圏・中古マンションの数字を並べると、次のようになります。

成約と在庫で、㎡単価が34万円以上も開いています。ここを取り違えると、売り出し価格の設定を丸ごと間違えます。3つの数字は、レポートの巻末にレインズ自身の定義が書かれています。
| 3つの数字 | レインズの定義 | 売主にとっての意味 |
|---|---|---|
| 成約 | 当月に成約報告のあった(売買契約が成立した)物件 | 買主が実際に払った金額。着地点の目安になる唯一の数字 |
| 新規登録 | 当月に新たに登録のあったもの(新規に売り出された物件) | 今月から並ぶライバルの売り出し希望価格 |
| 在庫 | 当月末時点で登録されている物件(売り出し中の物件) | 売れ残りを含む店頭の値札。成約とは限らない |
2026年7月の首都圏では、成約㎡単価が84.17万円/㎡で前年同月比マイナス1.5%と3か月連続の下落、いっぽうで在庫㎡単価は118.30万円/㎡で前年同月比プラス28.2%、2024年8月から24か月連続の上昇でした。新規登録㎡単価も117.86万円/㎡(同プラス20.4%・27か月連続上昇)です。
つまり、上がり続けているのは「売主側が付けている値札」のほうです。成約はほぼ横ばいから弱含みで推移しています。「マンション価格が上がっている」という見出しの根拠が新規登録価格や在庫価格であれば、それは市場が高く買ったという話ではなく、売主の期待値が上がっているという話です。この違いを押さえるだけで、査定額への納得のしかたが変わります。
参考までに、成約㎡単価は在庫㎡単価のおよそ7割(84.17÷118.30=71.1%/当編集部が公表値から算出)です。もちろん同じ物件を追跡した数字ではないので「3割値引きされる」という意味ではありませんが、値札の水準をそのまま自分の売り出し価格の根拠にすると、買主が見ている相場から離れることは読み取れます。
平均専有面積が違うので、「価格」で比べると二重に外れる
もうひとつ、同じ月の数字で見落とされやすいのが面積です。2026年7月の首都圏では、成約物件の平均専有面積が62.57㎡、在庫物件は58.04㎡と4.5㎡ほど違います。築年数も成約27.70年に対し在庫29.24年です。
成約価格5,267万円と在庫価格6,866万円を並べると差は1,599万円ですが、この差には「広さも築年数も違うものを比べている」分が混ざっています。だからレインズは㎡単価を併記していますし、売主が自分の物件を当てはめるときも、まず㎡単価に直してから考えるほうが誤差が小さくなります。
「首都圏の平均」で自分の部屋を測ると、ほぼ外れる
レインズは統計の利用ルールの中で、禁止事項としてはっきりこう書いています。「一時期あるいは一部地域の動きを全体化・一般化することのないようご注意ください」。データを出している側からの、かなり強い注意書きです。
実際、2026年7月の成約㎡単価をエリア別に見ると次のとおりで、首都圏平均の84.17万円/㎡はどのエリアの実感とも一致しません。
| エリア | 成約㎡単価(2026年7月) | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 東京都区部 | 135.77万円/㎡ | +2.7%(75か月連続上昇) |
| 横浜・川崎市 | 65.62万円/㎡ | −2.5%(13か月ぶり下落) |
| 東京都多摩 | 58.44万円/㎡ | +10.5% |
| 埼玉県 | 44.53万円/㎡ | +2.3% |
| 千葉県 | 41.37万円/㎡ | −0.1% |
都区部と千葉県では㎡単価が3倍以上開き、方向すら逆を向いています。「首都圏の中古マンションは上がっている/下がっている」という一文は、売主にとってほとんど情報量がありません。使うなら、少なくとも自分の物件がある都県・地区の行まで降りてください。
平均が下がったのは、値下がりではなく「売れた顔ぶれ」が変わったからかもしれない
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。成約の平均単価は、その月にどんな物件が売れたかで動きます。値下がりしていなくても、古い物件がたくさん売れた月は平均が下がります。
レインズが四半期ごとに出している「地域別・築年帯別成約状況」(2026年4〜6月期)を見ると、首都圏の中古マンション成約11,849件の内訳は次のようになっています。

築年帯ごとの成約㎡単価は、築5年以内の153.1万円/㎡から築30年超の47.1万円/㎡まで、3倍以上の幅があります。そして件数を見ると、築30年超だけで5,016件=全体の42.3%、築25年超では6,343件=54.2%を占めます(構成比は当編集部が公表値から算出。レインズも「築25年超の成約件数は成約件数全体の50%以上を占める」と記載しています)。
この状態で古い物件の成約が増えれば、個々の価格が1円も下がらなくても、平均の㎡単価は下がります。実際、同じ資料でレインズは「築20年超の各築年帯における成約㎡単価・成約価格は、すべての都県・地域で前年同期比上昇」と書いています。首都圏平均の見出しが弱含みでも、築年帯まで降りれば上がっている、ということが同時に起きているわけです。
売主がやるべきなのは、平均の増減に一喜一憂することではなく、自分の築年帯の行だけを見ることです。築28年の物件なら「~築30年」の76.7万円/㎡、築35年なら「築30年~」の47.1万円/㎡が出発点になります。築年数がいくつになると売りにくくなるのかという論点は中古マンションの売り時は築15年?で扱っています。
前年同月比を鵜呑みにできない一年が、直前に挟まっている
レポートの巻末には、見落とすと解釈を丸ごと誤る注記があります。
「(注)2025年1月以降、成約登録適正化を図るためのシステム改修を行ったことにより、成約件数に影響を与えている可能性があります。」
2025年の首都圏中古マンションの成約件数は、前年同月比でプラス24.6%(7月)、プラス54.5%(8月)、プラス46.9%(9月)と極端に伸びていました。この伸びには、市場が過熱したという以外の要因が混ざっている可能性を、レインズ自身が認めているということです。
そして2026年に入ると、その高い水準が比較対象(分母)になります。2026年7月の成約件数3,638件はマイナス8.6%で4か月連続の減少ですが、「減った」という見出しの一部は、前年が高く出ていたことの裏返しだと考えるほうが実態に近いはずです。前年同月比だけを見て「市場が急速に冷えた」と判断しないでください。迷ったら、比率ではなく件数そのものの推移を見るのが安全です。
売主の体感にいちばん近いのは、在庫を成約で割った月数
「いま売り出したら、どのくらいで売れそうか」を1つの数字で知りたいなら、公表されている在庫件数と成約件数を割るのが手軽です。在庫件数÷成約件数=いまの売れ行きのペースで在庫がはけるのに何か月かかるか、という目安になります。

2026年7月は47,151件÷3,638件で約13.0か月分、前年同月(2025年7月)は44,689件÷3,979件で約11.2か月分でした(いずれも当編集部がレインズ公表値から算出)。1年で2か月近く長くなっており、売りにくさは確かに増しています。
ただし、この数字には強い季節性があります。同じ算出方法でも2026年3月は約8.9か月分、翌4月は約11.6か月分と、1か月で大きく動きます。3月は成約が集中する月だからです。前月と比べるのではなく、必ず前年の同じ月と比べてください。
新規登録が成約の4.5倍で入ってくる、という意味
2026年7月は、成約3,638件に対して新規登録が16,474件でした。売れた数の約4.5倍が、その月に新しく売り出されています(当編集部が公表値から算出)。
ここで気をつけたいのは、差の12,836件がそのまま在庫の増加になるわけではないことです。実際の在庫は45,995件(6月末)から47,151件(7月末)へ1,156件の増加にとどまっています。売り出しを取り下げた、媒介契約が切れた、といった物件が抜けているためです。
それでも、売れる数を大きく上回るペースで新しい物件が並び続けていることは変わりません。売り出し初期の反響がいちばん取りやすいのは登録直後で、その後は新しく入ってきた物件に埋もれていきます。価格を強気に置いて数か月様子を見る戦略は、この供給ペースの中では想像以上に高くつきます。なお、問い合わせが来ないときに価格の問題と物件情報の扱いの問題を切り分ける視点は、囲い込み規制と相場の調べ方の記事にまとめています。
統計の次は、成約価格を1件ずつ見にいく
月例速報は平均値の集計なので、ここまでで分かるのは「自分の物件が置かれる場所」までです。最後の詰めには、成約価格そのものを検索できる公的なサイトを使います。
レインズが一般向けに公開している成約情報サイト
全国の指定流通機構が共同で運営する「不動産取引情報提供サイト(REINS Market Information)」では、実際に売買が成立した物件の成約価格を、会員でなくても検索できます。ポータルサイトに並ぶ売り出し価格ではなく、成約価格である点が決定的に違います。
ただし、個別の取引が特定されないよう表示はあえてぼかされています。同サイトの利用条件によれば、価格は万円単位に四捨五入、面積は実際の面積に5㎡の幅を持たせた表示(200㎡超は「200㎡以上」)、成約時期は3か月で区切った範囲での表示です。
したがって、隣の部屋の成約価格を1万円単位で突き止める道具ではありません。「自分の沿線・駅距離・築年帯で、直近どのあたりの価格帯に着地しているか」を確かめる道具として使ってください。査定書に書かれた成約事例が妥当かどうかを自分でも確認できる、という意味では十分すぎる精度です。相場の調べ方全般は相場より高く売るための相場の調べ方で詳しく整理しています。
国土交通省の「不動産情報ライブラリ」も合わせて見る
国土交通省が運営する「不動産情報ライブラリ」でも、不動産価格(取引価格・成約価格)情報を検索・ダウンロードできます。地価公示などの価格情報や、防災情報・都市計画情報も同じ地図の上で見られるため、ハザードや用途地域まで含めて買主が調べる材料を、売主が先回りして確認できるのが利点です。買主が必ず見るものを売主が見ていない、という状態を避けられます。
統計から売り出し価格に落とすまでの順番
ここまでを、実際の手順に並べ直します。
- 自分の都県・地区の行を見る。首都圏平均は使わない。
- 自分の築年帯の成約㎡単価を出発点にする。四半期の築年帯別資料を使う。
- 専有面積を掛けて概算の着地点を出す。ここが「売れる価格」の目安。
- 在庫㎡単価と新規登録㎡単価は、ライバルの値札として別枠で見る。着地点とは混ぜない。
- 在庫÷成約の月数を前年同月と比べ、売却期間の見立てを持つ。長引くなら住み替えの資金計画に反映する。
- 成約情報サイトで、同じ沿線・駅距離・築年帯の成約価格帯を確かめる。
- そのうえで査定書を読む。採用された成約事例が上の範囲から外れていたら、理由を聞く。
この順番を踏んでおくと、査定額が期待より低かったときに「なぜその金額なのか」を自分の言葉で検証できます。売主が損をするのは、相場が悪いときではなく、相場を確かめないまま強気の値札を掲げて時間だけを使ったときです。手取りは、売却額から仲介手数料・登記費用・税金を引いた後に残る金額で決まります。売り出し期間が延びればその間の管理費・修繕積立金・固定資産税も出ていきます。
数字を前にした売主から実際に出る質問
ニュースは「最高値を更新」なのに、査定は去年より低いと言われました。どちらが正しいのですか。
どちらも正しい可能性があります。見出しの根拠が新規登録価格や在庫価格であれば、それは売り出し希望価格の話で、成約価格とは別の系列です。2026年7月の首都圏では在庫㎡単価が前年同月比プラス28.2%で24か月連続上昇、同じ月の成約㎡単価はマイナス1.5%で3か月連続下落でした。記事がどの数字を指しているのかを確かめてから比べてください。
成約件数が4か月連続で減っています。売り時を逃したということでしょうか。
そう単純には言えません。前年の2025年は成約登録のシステム改修の影響がある可能性をレインズ自身が注記しており、比較の土台が高く出ています。また件数が減っていても、築年帯別に見れば築20年超の成約㎡単価はすべての都県・地域で前年同期比上昇しています。「市場全体が冷えたから売れない」ではなく、「自分の築年帯・エリアがどうか」で判断してください。なお売り時の判断軸は個別事情の比重が大きく、統計だけで決まるものではありません。
在庫が増えているなら、他の売主より先に売り出したほうが有利ですか。
在庫が積み上がる局面で早く動く判断自体は理にかなっていますが、順番より価格の置き方のほうが効きます。新規登録が成約の4.5倍のペースで入ってくる市場では、先に出しても価格が相場から離れていれば、後から出た適正価格の物件に追い越されます。先に出すこと自体が有利になるわけではありません。
レインズの数字は、仲介会社に頼まないと見られないのでしょうか。
月例速報のサマリーレポートは東日本レインズの公式サイトで誰でも閲覧できます。成約価格の個別検索も、一般向けの「不動産取引情報提供サイト」で可能です。会員しか見られないのは、売り出し中の物件情報を扱う業務用システムのほうです。統計と成約価格については、売主が自分で確認できます。
首都圏以外に住んでいます。同じ読み方が使えますか。
読み方の枠組みはそのまま使えます。レインズは全国に4つあり、中部・近畿・西日本の各機構もそれぞれ統計を公表しています。ただし数値そのものは首都圏のものを流用できません。自分の地域を管轄する機構の資料に置き換えてください。成約価格の検索サイトは全国分が1つにまとまっています。
統計は「相場」ではなく、自分の物件がどこに置かれるかを測る道具
レインズの月例速報は、相場を1つの数字で教えてくれる資料ではありません。成約・新規登録・在庫という3つの立場の数字を並べて、市場のどこで需要と供給がすれ違っているかを示す資料です。売主にとっての使いどころは、平均の増減を追うことではなく、自分のエリアと築年帯の行まで降りて、着地点の目安とライバルの値札を分けて把握することにあります。
そのうえで成約価格を1件ずつ確かめれば、査定書に書かれた根拠を自分で検証できるようになります。数字を読めるようになった売主は、値引き交渉の場面でも、価格を下げる/下げないの判断を感情ではなく材料で下せます。まずは今月のサマリーレポートを開いて、自分の都県の行に線を引くところから始めてみてください。
本記事の数値は、東日本不動産流通機構「月例速報マーケットウオッチ・サマリーレポート<2026年7月度>」(2026年8月10日公表)および「REINS TOPIC 首都圏中古マンション・中古戸建住宅 地域別・築年帯別成約状況<2026年4〜6月>」(2026年7月17日公表)によります。比率・月数など、公表値をもとに当編集部が算出した数値はその旨を本文中に明記しています。統計は改定されることがあるため、最新の数値は各公表資料でご確認ください。








