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マンション売却の建物状況調査|有効期間2年と共用部分の実務

2026年8月12日

マンションの建物状況調査(インスペクション)で建築士が建物を確認するイメージ

マンションの売却を仲介会社に依頼すると、媒介契約書の冒頭近くに「建物状況調査を実施する者のあっせん 有・無」という欄が出てきます。ほとんどの売主は、担当者から短い説明を受けて「無」に丸が付いた書面に署名しているはずです。ところがこの欄は、2018年4月の宅地建物取引業法改正で設けられ、2024年4月にはマンションだけルールが変わったところでもあります。

建物状況調査(インスペクション)の解説記事は数多くありますが、その大半は木造戸建てを前提に書かれています。マンションは、調査の有効期間も、調べられる範囲も、誰の了承が要るかも戸建てとは違います。この記事では国土交通省の資料をもとに、マンションの売主が「やるかどうか」を自分で決められるだけの材料を、実務の順番でそろえます。

義務になったのは「調査」ではなく「あっせんの有無を書くこと」

「2018年からインスペクションが義務化された」という表現をよく見かけますが、これは正確ではありません。宅建業法が宅建業者に課したのは、取引の3か所で建物状況調査に触れることであって、調査そのものを行う義務は売主にも買主にも生じていません。国土交通省のQ&Aも「既存住宅を売買する場合に、必ず建物状況調査を実施しなければならないものではありません」と明記しています。

場面宅建業者に課された内容根拠
媒介契約を結ぶとき調査を実施する者のあっせんの有無を媒介契約書に記載する宅建業法34条の2第1項第4号
重要事項説明のとき調査を実施していれば結果の概要を説明する。あわせて設計図書等の保存の状況も説明する同35条1項6号の2 イ・ロ
売買契約が成立したとき構造耐力上主要な部分等について当事者双方が確認した事項を37条書面に記載する同37条1項2号の2

つまり売主から見ると、制度は「調査を強制するもの」ではなく「調査という選択肢があることを、仲介会社が必ず示す仕組み」です。あっせんを受けたあとに見積もりを見て断ることもできます。そして、あっせんは媒介業務の一環なので、媒介報酬とは別にあっせん料を払う必要はありません。ここは知らないまま「有料になるなら結構です」と断ってしまう売主が少なくない部分です。媒介契約そのものの選び方は、媒介契約の種類と売却時の注意点もあわせて確認してください。

2024年4月から、「無」にするなら理由も書かれる

令和6年国土交通省告示第34号によって標準媒介契約約款が改正され、あっせんを「無」とする場合にその理由を書く欄が設けられました(2024年4月1日施行)。同時に、トラブルを避ける観点から建物状況調査の限界——瑕疵の有無を判定するものではないこと——も約款に明記されています。

売主にとっての実務的な意味は単純です。媒介契約書の「無」の欄に、何が書かれているかを読む価値ができたということです。「依頼者の希望がないため」と書かれていたのに希望を聞かれた覚えがない、という場合は、その場で確認したほうがよいでしょう。

マンションだけ有効期間が2年——戸建てとルールが違う

ここがこの記事でいちばんお伝えしたい点です。重要事項説明の対象になる建物状況調査は、木造戸建て住宅なら調査の実施から1年以内、鉄筋コンクリート造等の共同住宅(マンション)は2年以内のものです(宅地建物取引業法施行規則16条の2の2)。

もともとは建物の種類を問わず一律1年でしたが、2024年4月1日から共同住宅等だけ2年に延びました。「インスペクションの有効期限は1年」と書いている解説記事はいまも多く、マンションの売主がそれを読んでまだ使える調査結果を「もう期限切れだ」と自分で捨ててしまうのが、現場でいちばん惜しいパターンです。

なぜマンションだけ2年になったのか。背景は次の見出しで扱う「分けて調べられる」という運用にあります。共用部分の調査を管理組合側の既往調査と組み合わせて使えるようにするには、1年では短すぎたのです。

2年を過ぎた調査は、黙っていてよいという意味ではない

2年を過ぎた調査結果は、法定の重要事項説明の対象からは外れます。ただし国土交通省のQ&Aは、期間を過ぎた調査であっても瑕疵が発見されているなど買主の判断に重大な影響を及ぼす内容を故意に説明しなかった場合には、宅建業法47条違反に問われる可能性があるとしています。

売主の立場でも同じことが言えます。期限切れは「なかったこと」にできる制度ではありません。過去の調査で指摘された事象は、告知書に書くかどうかを含めて仲介会社と相談しておくのが安全です。構造上の特徴が査定や告知にどう響くかは、ピロティ構造のマンションと売却時の告知でも触れています。

専有部分だけ、共用部分だけ——マンションは分けて調べられる

マンションの建物状況調査は、専有部分(住戸内)だけでなく共用部分も対象になります。ここが戸建てと決定的に違うところで、共用部分を調べるにはあらかじめ管理組合の了承が要ります。売主が単独で「明日やります」と決められる調査ではありません。

一方で、2024年4月の見直しにあわせて、共用部分のみ・専有部分のみの調査でも建物状況調査として有効であることが明確にされました。しかも、住戸内の調査と住戸外の調査を、別の調査者が別の時期に実施していても構いません。国土交通省はその活用例として、管理組合が建築基準法の定期報告や大規模修繕にあわせて共用部分の調査を済ませておき、売却の際には売主が対象住戸の専有部分だけを調べて、両方の結果を組み合わせる形を挙げています。

売主の費用負担という観点では、これは相当に大きな話です。管理組合がすでに共用部分を調べているなら、売主が新たに払うのは専有部分ぶんだけで済む可能性があるということだからです。

「住戸型」と「住棟型」——分譲マンションの売主に関係するのは住戸型

マンションの建物状況調査には2つの型があります。住棟型は最上階・最下階・指定された途中階など住棟全体を対象とするもので、単一の所有者が一棟を持っているケースを想定した型です。住戸型は特定の住戸を対象に、マンションの出入口からその住戸に至る経路等を調べるもので、複数の区分所有者がいるケースを想定しています。

つまり、分譲マンションの一室を売る売主に関係するのは住戸型です。管理組合が全住戸ぶんの共用部分を調べる場合も、この住戸型で行うことになります。賃貸マンションを一棟で持っているオーナーが住棟型を実施していれば、その内容も重要事項として説明されます。

瑕疵保険まで狙うなら、調査を分けると条件が付く

ただし、分けて調べた結果を既存住宅売買瑕疵保険の加入に使いたい場合は話が変わります。国土交通省のQ&Aは、それぞれの調査を同一の調査実施者(住宅瑕疵担保責任保険法人の登録を受けた検査事業者)に依頼する必要があるなど、加入条件があると注意を促しています。

保険を視野に入れるなら、順番を逆にしてはいけません。先に安い調査会社へ専有部分だけ頼んでしまうと、あとから保険に加入しようとしたときに調査をやり直すことになりかねない。保険まで考えるなら、最初から保険法人の登録を受けた検査事業者に依頼するのが正解です。なお、調査結果の概要に「調査できなかった」「劣化事象有り」と記載があると、そのままの状態では保険に加入できません。再調査か、修補してからの再検査が必要になります。

給排水管は、標準の調査範囲に入っていない

建物状況調査の対象は、構造耐力上主要な部分(基礎、土台、床、柱、梁、外壁、内壁、天井、小屋組など)と雨水の浸入を防止する部分(外壁、屋根、開口部の建具など)に限られます。原則として目視・非破壊検査で行われ、基礎の調査でも敷地内の地中までは見ません。

そして、給排水管路や給排水設備は建物状況調査の対象ではありません。オプション調査として依頼できる場合はありますが、標準の範囲には入っていないのです。

これはマンションの売買では見過ごせないズレです。買主が中古マンションで最も気にするのは上下階の水漏れや配管の劣化であることが多いのに、法定の建物状況調査を受けてもそこは調べられていない。「インスペクション済みだから水回りも大丈夫」という説明は成り立ちません。売主としては、調査済みであることを、調べていない範囲まで含めて保証したかのように伝えないことが大切です。
なお既存住宅売買瑕疵保険では、特約を付けることで給排水管路部分等を保険の対象にできる商品があります。水回りの不安に備えたいなら、調査ではなく保険側で手当てするという考え方になります。

仲介会社が乗り気でないのは、マンションでは珍しくない

「うちは建物状況調査のあっせんはやっていません」と言われた売主は、自分の担当者だけが消極的なのかと不安になるかもしれません。実際には、それが多数派です。

国土交通省が2022年度に宅建業者813社へ行った調査では、成約案件のうち媒介契約時にあっせん「有」と示したものが1件もなかった業者が、中古マンションの売主側媒介で80.9%にのぼりました。中古戸建ての売主側媒介(70.4%)と比べても、マンションのほうが10ポイントほど高いという結果です。

媒介契約で建物状況調査のあっせん「有」と示した案件が1件もなかった宅建業者の割合を、中古マンションと中古戸建で比べた棒グラフ
マンションのほうが戸建てより「あっせん無」が多い。n=813のうち成約なし・無回答を除く。

「マンションだから」を理由に挙げる業者は2割前後

同じ調査で、一律にあっせん「無」としている理由を尋ねたところ、全体では「あっせんに係る業務の手間が負担」(32.0%)「売主・買主のニーズがないと判断」(31.1%)が上位に並びました。そのなかで、マンション固有の理由として挙げられたのが次の4つです。

宅建業者が一律にあっせん無としている理由のうち、マンション固有の4項目の回答割合を示す横棒グラフ
n=466・複数回答。2024年4月の共用部分の運用見直しより前の調査である点に注意。

いずれも「マンションでは調査の意味が薄い」という業者側の見立てです。ただし、このアンケートは2024年4月の見直しより前に行われたものだという点は押さえておいてください。「共用部分の調査範囲が限定的でニーズがない」「管理組合の協力を得にくい」という理由は、共用部分の既往調査を活用できるようになった現在の制度を前提にしたものではありません。担当者の説明が2024年以前の前提で止まっていないかは、売主の側から確かめる価値があります

費用・時間と、効きやすい物件・効きにくい物件

費用に公定の基準はありません。国土交通省の手引きは標準的な検査内容で6万円程度からを目安とし、所要時間は1〜3時間程度としています。戸建て(木造)とマンション(鉄筋コンクリート造等)では調べる部位や箇所数が違うため、費用も変わり得ます。負担するのは調査を依頼した人(売主または購入希望者)が一般的です。

問題は、この費用がどういう物件で回収できるかです。国土交通省は物件の特性ごとに効果を整理しており、これは売主にとってそのまま判断軸になります。

物件の状態誰が実施するとメリットが大きいか売主にとっての意味
不具合の可能性が低い(築年が浅い・リフォーム済みなど)売主が実施するメリットが大きい不具合がないことが明確になり、瑕疵保険に加入できる可能性も高い。希望価格で売れる材料になる
不具合の可能性が高い、または明確に分かっている買主が実施しないリスクのほうが大きい売主が先に実施すると値引き材料になり得る。ただし隠せば引渡し後の紛争になる

言い換えると、調査は「自信のある物件ほど売主が先に出す」ほうが効くということです。逆に不安要素が分かっている物件は、調査で数字にしてから価格へ織り込むか、告知して条件交渉に持ち込むかの選択になります。どちらにせよ、築年数と売り出し時期の見立てとセットで考える話なので、中古マンションの売り時と築年数の考え方もあわせて読んでみてください。

「調べたら不利になる」は、法律上は成り立たない

売主が調査をためらういちばんの理由は、不具合が見つかったら値下げされる、というものです。気持ちは分かりますが、調べなければ責任を免れる、という構造にはなっていません

民法572条は、売主が契約不適合責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については責任を免れることができないと定めています。免責特約を付けたから安心、ではないということです。国土交通省の手引きも、購入検討者から調査の要望を受けた売主が「面倒だし何か見つかったら嫌だ」と断り、引渡し後に不具合を指摘されて「隠していたのではないか」と言われた——という事例を挙げています。

実際に調査を受けた人の評価も、事前の不安ほど悪くありません。国土交通省の消費者アンケートでは、建物状況調査を実施した205人のうち「とても満足」「満足」の合計が78.5%でした(売主118人・買主87人)。売主だけを見ても、とても満足23.7%・満足55.9%で約8割です。

なお、買主が調査を希望する場合は、建物の所有者である売主の承諾が必要です。断る権利はありますが、断ったことが後の紛争の火種になり得る——というのが上の事例です。「断る」より「先に自分で調べておく」ほうが、売主の側で主導権を持てると考えたほうが実務に合います。

売却を決めたら、この順番で確認する

マンションの売主が実際に動く順番は、次の4段階です。1番目を飛ばして調査会社を探し始めないことが、費用面でも時間面でも効きます。

  1. 管理組合・管理会社に、共用部分の既往調査の有無を聞く。建築基準法の定期報告や大規模修繕にあわせて建物状況調査が行われていれば、その結果を活用できる余地があります。実施から2年以内なら重要事項説明の対象にもなります。
  2. 設計図書等がどこにあるかを確認する。検査済証、新耐震基準への適合を確認できる書類、新築時・増改築時の設計図書、新築後の調査点検の報告書は、保存の有無が重要事項説明の対象です。マンションでは管理組合が持っていることが多く、その場合は保有者を重要事項説明書の備考欄に記載して説明することになります。売主は「うちには無い」で終わらせず、管理組合側に照会してもらいましょう。
  3. 媒介契約を結ぶときに、あっせんの希望をはっきり伝える。希望すればあっせんを受けられますし、あっせん料は不要です。自分で調査実施者を探すことも可能で、その場合は国土交通省の補助事業で開設された既存住宅状況調査技術者検索サイトから探せます。
  4. 瑕疵保険まで考えるなら、依頼先を先に決める。保険を使うなら、住宅瑕疵担保責任保険法人の登録を受けた検査事業者の検査員に依頼します。保険加入に必要な検査は建物状況調査と併せて実施できるので、二度手間を避けられます。

調査を依頼するときは、当日までに設計図書や耐震性に関する書類を用意しておくと進みが早くなります。マンションの場合は、これに加えて管理規約や長期修繕計画の写しを管理組合に請求して準備するよう求められることがあります。

売主から寄せられやすい疑問

管理組合が共用部分の調査に応じてくれません。専有部分だけ調べても意味はありますか。

意味はあります。共用部分のみ、もしくは専有部分のみの建物状況調査を実施することは可能で、それだけでも宅建業法上の建物状況調査として有効です。ただし調べていない範囲は「調査していない」というだけであり、問題がないことの証明にはなりません。買主にどう伝えるかは、仲介会社と文言を詰めておくのが安全です。

3年前に管理組合が調査をしています。重要事項説明に使えますか。

マンションの場合、重要事項説明の対象になるのは実施から2年以内の調査なので、3年前のものは法定の説明対象からは外れます。ただし劣化事象が確認されているなど買主の判断に重大な影響を及ぼす内容であれば、対象外だからと伏せてよいものではありません。仲介会社に資料を渡し、扱いを相談してください。

2年以内の調査が複数あります。どれが説明されるのですか。

取引物件の現況とのズレが最も小さいと考えられる直近の調査が重要事項説明の対象になります。ただし、直近以外の調査で劣化事象が確認されているなど取引の判断に重要な影響を及ぼす場合は、そちらも説明することが適当とされています。「新しいほうだけ出せばよい」とは考えないでください。

調査のあと、台風や地震があった場合はどう扱われますか。

2年以内であれば、その調査は引き続き重要事項説明の対象です。自然災害による影響を具体的に判断するのは難しく、災害前の調査でも劣化事象の記録は取引判断の参考になるためです。説明の際には調査のあとに大規模な自然災害が発生した旨も併せて説明することが望ましいとされています。

仲介会社が自社で調査すると言っています。そのまま任せてよいですか。

結果の客観性を確保する観点から、媒介を行う宅建業者自身が調査の実施主体になるのは、売主および購入希望者の同意がある場合を除いて適当ではないとされています。一方、取引に直接の利害関係がないグループ会社を調査実施者としてあっせんすることは差し支えなく、この場合は同意も不要です。「自社で」と言われたら、それが自社実施なのかグループ会社のあっせんなのかを確認しましょう。

最初に探すのは調査会社ではなく、管理組合がすでに持っている資料

マンションの建物状況調査は、戸建てのように「売主が思い立って手配すれば終わる」ものではありません。共用部分は管理組合の了承が要り、その代わりに管理組合の既往調査を使える。有効期間は戸建ての倍の2年ある。そして給排水管は範囲外——この3つを知っているかどうかで、かける費用も、買主への説明の精度も変わります。

売却を決めたら、まず管理組合と管理会社に「共用部分の建物状況調査と、設計図書等の保存状況」を照会してください。そこに何が残っているかが分かってから、自分で調べる範囲を決めるのが、いちばん無駄の少ない順番です。

※本記事は2026年8月時点の制度に基づいています。調査の費用・所要時間や保険の加入条件は事業者によって異なるため、最新の取り扱いは各調査実施者・各住宅瑕疵担保責任保険法人の公式情報でご確認ください。

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