旧耐震マンションの売却|登記簿の建築日付で買主の税額が変わる
2026年8月28日

1981年以前に建てられたマンションを売ろうとすると、「旧耐震だと値段が付かない」「買い手が住宅ローンを組めない」といった話を耳にします。実際に価格へ効いてくるのは事実ですが、その効き方は建物の強さそのものよりも、買主が受け取れる税制の扱いが変わることから来ています。そして、その扱いを分けているのは耐震診断の結果ではなく、登記事項証明書に書かれた建築の日付です。
ここでは、国税庁・国土交通省・法務省の公表資料をもとに、売主が査定を頼む前に自分で確かめられることを順番に整理します。数字は手取り(売却額から費用と税金を引いた金額)で考える前提で並べています。
売主が最初に開くのは、耐震診断の報告書ではなく登記事項証明書
旧耐震・新耐震という言葉は、実務では二つのまったく別の日付で使い分けられています。この二つを混ぜてしまうと、売り出してから「聞いていた話と違う」という事態になります。
構造の分かれ目は「建築確認が昭和56年6月1日以降かどうか」
現行の耐震基準(新耐震基準)は昭和56年(1981年)6月1日から適用されています。国土交通省は新耐震基準の目標を、震度5強程度の地震ではほとんど損傷を生じず、震度6強から7に達する程度の極めて稀な大規模地震に対しても人命に危害を及ぼす倒壊等の被害を生じないこと、と説明しています。
ここで基準になるのは着工でも竣工でもなく、建築確認を受けた日です。昭和56年6月1日より前に建築確認を受けている建物は、構造としては旧耐震基準で設計されています。
税制の分かれ目は「登記簿の建築日付が昭和57年1月1日以後かどうか」
ところが、買主が使う税制の側は建築確認日を見ません。住宅ローン減税でも登録免許税でも不動産取得税でも、判定は「昭和57年(1982年)1月1日以後に建築されたものかどうか」で、その確認方法は登記事項証明書と定められています。登録免許税の証明事務を定めた国土交通省住宅局長通知には、「当該家屋が昭和57年1月1日以後に建築されたものであることについては、当該家屋の登記事項証明書によるものとする」と明記されています。
つまり、税制上は登記簿の建築日付が1982年1月1日以後なら、それだけで要件を満たすということです。耐震診断も、耐震改修も要りません。
工期をはさむぶん、この二つは物件ごとにずれる
マンションは着工から竣工まで1年半から2年ほどかかります。そのため、構造の分かれ目(昭和56年6月1日の建築確認)と税制の分かれ目(昭和57年1月1日の建築日付)は、約7か月ではなく実質的に2年以上ずれることがあります。よくあるのは次の二つです。
- 登記簿は1982年築だが、建築確認は1980年〜1981年5月——税制上の要件は登記事項証明書だけで満たしますが、構造としては旧耐震基準で設計されています。「1982年築だから新耐震です」と売主が説明してしまうと、後で買主の建物調査や管理組合の資料から発覚し、話がこじれます。
- 建築確認は1981年6月以降だが、登記簿は1981年築——構造は新耐震基準で設計されていても、税制上は証明書を用意しないと要件を満たしません。「うちは新耐震だから大丈夫」は、この場面では通用しません。
売主が言うべきなのは「新耐震です」「旧耐震です」という一言ではなく、「登記簿の建築日付は◯年◯月、建築確認は◯年◯月です」という二つの事実です。前者は登記事項証明書で、後者は管理組合が保管する建築確認済証で確認できます。
1981年築と1982年築で、買主が受け取る税制はここまで変わる
住宅ローン減税——令和8年に5年延長され、既存住宅の扱いが変わった
住宅ローン減税は令和8年度税制改正で適用期限が5年延長され、入居日が令和8年(2026年)1月1日から令和12年(2030年)12月31日までの取得が対象になりました。省エネ性能の高い既存住宅は借入限度額が引き上げられ、控除期間も13年に拡充されています。
ただし、旧耐震のマンションが省エネ性能の証明を取れることはまずないため、実際に当てはまるのは「その他住宅」=借入限度額2,000万円・控除期間10年の区分です。控除率は年末残高の0.7%なので、10年間で最大140万円ほどが買主の税額から引かれる計算になります。これが使えるかどうかは、買主が出せる金額に直接効きます。
あわせて、今回の改正で床面積要件が新築・既存とも40㎡以上に緩和されました(合計所得金額1,000万円超の人、子育て世帯等への上乗せ措置を使う人は50㎡以上)。専有面積の小さい住戸が多い旧耐震のマンションにとっては追い風です。判定は登記事項証明書に表示された専有部分の床面積で行われるため、販売パンフレットの表示面積ではなく登記事項証明書で確認してください。
登録免許税の移転登記が、2.0%になるか0.3%になるか
買主が負担する所有権移転登記の登録免許税は、本則が固定資産税評価額の2.0%、住宅用家屋の軽減が適用されると0.3%です(適用期限は令和9年3月31日)。抵当権の設定登記も0.4%から0.1%になります。評価額1,500万円の住戸なら、移転登記だけで30万円と4万5,000円の差です。
この軽減を受けるには市区町村が発行する住宅用家屋証明書が必要で、その「地震に対する安全性」の確認方法が、先ほどの登記事項証明書(昭和57年1月1日以後の建築)か、後述する証明書のいずれか、という並びになっています。なお軽減は取得後1年以内に登記を受けるものに限られます。マンション売却でかかる諸費用と税金の全体像もあわせて確認しておくと、買主との費用の話がかみ合いやすくなります。
不動産取得税は「新築された時期の控除額」で引かれる
住宅を取得したときの不動産取得税は、本則4%のところ3%に軽減されています(適用期限は令和9年3月31日)。課税標準からの控除は、新築住宅が1,200万円であるのに対し、中古住宅は「新築時における控除額と同額」とされており、古い年代に新築された住宅ほど控除額は小さくなります。
そして地方税法施行令は、この特例の対象となる既存住宅の要件を「昭和五十七年一月一日以後に新築されたものであること」または耐震基準に適合する証明がされたもの、と定めています。ここでも同じ日付が出てきます。控除額の具体的な金額や床面積の要件は都道府県ごとの運用の案内があるため、物件所在地の県税事務所の案内で確認してください。
| 買主が使う制度 | 登記簿の建築日付が1982年1月1日以後 | 1981年12月31日以前 |
|---|---|---|
| 住宅ローン減税 | 登記事項証明書の添付だけで要件を満たす | 3つの証明書のいずれか1つが必要 |
| 登録免許税(移転登記) | 住宅用家屋証明書を経て2.0%→0.3% | 同じ3書類のいずれかを添えて申請 |
| 不動産取得税 | 新築された時期に応じた控除を受けられる | 耐震基準に適合する証明が必要 |
| 売主の準備 | 登記事項証明書を取っておけば足りる | 管理組合と段取りを組む必要がある |
昭和56年12月31日以前の建築なら、証明書は3つのうちどれか1つ
登記簿の建築日付が1981年以前でも、買主が制度を使えなくなるわけではありません。国税庁・国土交通省が並べている代替の証明は、次の3つです。3つすべてを揃える必要はなく、どれか1つで足ります。
| 証明書 | 発行できる主体 | 期限 |
|---|---|---|
| 耐震基準適合証明書 | 建築士、指定確認検査機関、登録住宅性能評価機関、住宅瑕疵担保責任保険法人 | 取得の日前2年以内に証明のための調査が終了 |
| 住宅性能評価書の写し(耐震等級1・2・3) | 登録住宅性能評価機関 | 取得の日前2年以内に評価 |
| 既存住宅売買瑕疵担保責任保険の付保証明書 | 住宅瑕疵担保責任保険法人 | 取得の日前2年以内に保険契約を締結 |
どれにも「取得の日前2年以内」という期限が付いている
ここが見落とされがちな点です。10年前に管理組合が耐震診断をして「耐震性あり」と判定されていても、その資料をそのまま出すことはできません。証明のための調査・評価・保険契約が、買主が取得する日の2年前より後になっている必要があります。過去の診断結果は、あらためて証明を取るときの資料として役に立つ、という位置づけです。
買主が取得後に耐震改修する道もあるが、区分は「その他の住宅」になる
証明が間に合わない場合、買主が取得の日までに耐震改修の申請をし、居住を始める日までに耐震基準への適合を証明するという方法もあります(要耐震改修住宅)。ただしこの経路を通った住宅は、長期優良住宅などの区分では申告できず、住宅ローン減税では「その他の住宅」として扱われます。旧耐震のマンションでは元々その他住宅に当たることが多いので実害は小さいものの、買主が単独で決められる話ではないことは押さえておいてください。
マンションでは、この証明を売主ひとりで用意できない
耐震診断には管理組合の総会決議が要る
戸建てと決定的に違うのがここです。国土交通省は、分譲マンションの耐震診断について「区分所有者による管理組合での総会決議が必要となります」と説明しています。構造計算書の再計算にしても耐震診断にしても管理組合からの経費支出を伴うため、一区分所有者である売主が、自分の売却のために単独で発注することはできません。
したがって、売り出しを決めてから耐震基準適合証明書を取りにいく計画は、まず間に合いません。現実的な選択肢は、既存住宅売買瑕疵担保責任保険の付保証明書を検査事業者に相談する道を探るか、証明なしで売り出して価格と条件でそのぶんを調整するか、のどちらかになります。
旧耐震のマンションには、そもそも構造計算書が無いことがある
構造計算書が分譲会社から管理組合へ引き渡される仕組みは、マンションの管理の適正化の推進に関する法律にもとづくもので、平成13年(2001年)8月1日以降に工事が完了したマンションが対象です。1981年以前のマンションはこの対象外なので、管理組合に設計図書や構造計算書が残っていないことが珍しくありません。国土交通省も、保管されていない場合はまず売主(分譲会社)に問い合わせるよう案内しています。
資料が無ければ診断の前段でつまずきます。これは売主の落ち度ではなく、その年代のマンションに共通する事情です。買主に説明するときも、そう伝えれば足ります。
だから売主が先にやるのは「資料の在りかを確かめること」
証明書を取ることではなく、管理組合に何が残っているかを聞き出すことが最初の一手になります。理事会や管理会社に確認したいのは、建築確認済証と検査済証、設計図書と構造計算書、過去に耐震診断をしていればその報告書、そして長期修繕計画に耐震改修が入っているかどうか。この4点が揃うだけで、買主側の建築士が判断できる材料になります。
「旧耐震だから不利」だけではない——2026年4月に変わった再生のルール
法律の名前が「マンション再生法」に変わった
2025年5月30日に公布された改正法(令和7年法律第47号)により、これまでの「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」は「マンションの再生等の円滑化に関する法律(マンション再生法)」となり、再生に関する部分は2026年4月1日に施行されています。建替えだけでなく、建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション(更新)、建物の取壊しが、多数決の決議でできるようになりました。
耐震性が不足していると、決議の要件はむしろ下がる
ここが見落とされている点です。これらの再生手法の決議要件は原則5分の4ですが、耐震性不足等の場合は4分の3、政令指定災害による被災の場合は3分の2に緩和されます。あわせて、耐震性不足で建替え・更新をする場合には、容積率に加えて特定行政庁の許可による高さ制限の特例も新設されました。マンションと敷地を一括して売却する敷地売却の対象も、今回すべてのマンションへ拡充されています。
つまり、耐震性の不足は、住戸を1戸ずつ売る場面では買主の制度利用を狭める一方、建物全体の出口を考える場面では合意形成のハードルを下げる方向に働きます。管理組合で建替えや一括売却の議論が始まっているマンションなら、売却の判断そのものを組み替える余地があります。この論点は資産価値が落ちにくいマンションの条件とも重なります。
ただし、これは個人の売却とは別のレーンの話
再生の議論が動くかどうかは管理組合の意思であって、売主が売却のスケジュールに組み込めるものではありません。「建替えの話が出ているから高く売れる」と期待して売り出しを遅らせるのは避けてください。決議に至るまでの期間は読めず、その間も建物は古くなります。

国土交通省の資料によれば、築40年以上のマンションは2023年末で約137万戸あり、10年後には約2倍、20年後には約3.4倍になる見込みです。同じ論点を抱える住戸はこれからも増え続けます。築年数で売り時を判断する考え方とあわせて読むと、自分の住戸がどの位置にいるかが見えてきます。
売り出す前に、この順で確かめる
- 登記事項証明書を取り、建築の日付を見る。1982年1月1日以後なら、買主の税制は登記事項証明書だけで通ります。ここで話の半分は終わります。
- 1981年以前だったら、管理組合に建築確認済証と検査済証の有無を聞く。建築確認日が昭和56年6月1日以降かどうかで、買主に説明できる内容が変わります。
- 過去の耐震診断の有無と、その実施年を確認する。2年より前のものはそのままでは証明に使えませんが、あらためて証明を取るときの資料になります。
- 既存住宅売買瑕疵担保責任保険の付保証明が取れるか、仲介会社に検査事業者を紹介してもらう。売主が単独で動ける可能性が最も高い経路です。
- 証明が取れない前提の価格も、同時に置いておく。買主が減税を使えないぶんは条件面に出てきます。手取りで比較して判断してください。
- 長期修繕計画と管理組合の議事録を読み直す。耐震改修や建替えの議論が始まっているなら、売り出し時期の判断材料になります。
旧耐震のマンションを前にした売主から出る質問
登記簿は1981年築ですが、建築確認は1981年8月です。買主は住宅ローン減税を使えますか。
そのままでは使えません。税制の判定は登記事項証明書の建築日付で行われるため、構造が新耐震基準で設計されていても、1981年築であれば3つの証明書のいずれかが必要になります。ただし建築確認が昭和56年6月1日以降であることは、耐震基準適合証明を取りにいくうえで有利な材料です。管理組合に建築確認済証が残っていれば、必ず控えを取っておいてください。
耐震基準適合証明書は、売主と買主のどちらが取るのですか。
制度上はどちらの名義でも有効とされていますが、マンションでは棟全体の耐震性が前提になるため、実務では管理組合の協力なしに証明が出ません。買主が取得後に自分で動く前提にすると、証明の期限や耐震改修の申請時期の条件を外してしまう恐れがあります。誰がいつ何を申請するかは、売買契約の前に仲介会社を交えて決めておくべき事項です。
管理組合が耐震診断をしていません。売却前に総会で提案すべきでしょうか。
売却のスケジュールに乗せる目的であれば、現実的ではありません。診断には総会決議と費用の支出が必要で、結果が出るまでにも時間がかかります。ただし診断そのものは、居住者にとっても資産にとっても意味のある議題です。売却とは切り離して提案し、自分の売却は今ある資料で進める、という整理が現実的です。地方公共団体が診断や改修の費用を補助している場合もあるので、管理組合には所在市区町村の窓口を案内しておくとよいでしょう。
「旧耐震だから値引きしてほしい」と言われました。いくら下げるのが妥当ですか。
一律の相場はありません。ただし交渉の材料を分解することはできます。買主が受け取れなくなるのは、住宅ローン減税(その他住宅なら10年で最大140万円程度)、登録免許税の軽減(評価額の1.7%相当)、不動産取得税の控除の3つです。値引きを求められたら、この内訳を並べて「証明書が取れれば戻る部分」と「戻らない部分」を分けて話すほうが、金額だけで押し合うより結論が早く出ます。
買主が現金で買う場合でも、建築日付は関係ありますか。
関係します。住宅ローン減税は借入れが前提なので現金購入では使いませんが、登録免許税の軽減と不動産取得税の控除は借入れの有無に関係なく効きます。現金の買主だから建築日付は関係ない、という説明は誤りです。また、将来その買主が売却するときには、次の買主の住宅ローンの条件として同じ論点が戻ってきます。
建築の日付は変えられないが、買主の選べる道は増やせる
旧耐震のマンションの売却でつまずくのは、たいてい「構造の話」と「税制の話」を一つの言葉で語ってしまうときです。売主にできるのは建物を新しくすることではなく、登記事項証明書の建築日付、建築確認の日、管理組合に残っている資料、この3つを先に確定させて、買主と仲介会社が判断できる状態にしておくことです。
制度は動きます。住宅ローン減税は令和12年12月31日入居まで延長され、床面積の要件は緩和され、再生のルールは2026年4月に変わりました。本記事の数値・要件は2026年8月28日時点で各公式サイトを確認したものですので、実際の申告や登記の場面では、国税庁・国土交通省および物件所在地の自治体の最新の案内で必ずご確認ください。








