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管理費滞納は買主にも請求される|マンション売却前の精算の実務

2026年8月9日

マンションの引き渡しと管理費の精算をイメージした図

マンションを売るときに、意外と表に出てこないまま決済日が近づいてしまうのが管理費・修繕積立金の滞納です。数か月分であれば「引渡しまでに払えばいい」と考えがちですが、区分所有法には、他の不動産にはない特別なルールが置かれています。滞納を残したまま引き渡すと、管理組合は買主に対しても支払いを請求できるのです。

この記事では、条文がどこまでを定めているのかを確認したうえで、売主の義務は本当に消えるのか、重要事項説明でどこまで買主に伝わるのか、そして手取りを最も減らさない精算のしかたまでを、実務の順番に沿って整理します。国土交通省の最新調査で、滞納がどれくらい珍しくないのかも見ておきましょう。

滞納を残して引き渡すと、管理組合は買主にも請求できる

根拠になるのは、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)の第7条と第8条です。第8条はごく短い条文で、次のように定めています。

「前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」(区分所有法第8条・特定承継人の責任)

ここでいう「前条第一項に規定する債権」とは、第7条第1項が挙げる規約または集会の決議にもとづいて他の区分所有者に対して有する債権のことです。管理費も修繕積立金も、管理規約と総会決議にもとづいて納入するものですから、まさにこれに当たります。

そして「特定承継人」とは、その専有部分を個別に引き継いだ人、つまり買主です。贈与を受けた人や、競売で買い受けた人も含まれると解されています。売買代金を満額払った買主が、前の所有者の未払い分まで請求され得る——他の不動産取引ではまず起こらないこの構造が、マンション特有の論点になっています。

管理費の債権には「共益費用の先取特権」が付いている

第7条は、管理組合側にもう一つの回収手段も与えています。この債権について、債務者である区分所有者の区分所有権(共用部分に関する権利や敷地利用権を含む)と、建物に備え付けた動産の上に先取特権を有するとされ、さらに第7条第2項で、その優先順位と効力は共益費用の先取特権とみなすと定められています。

つまり管理組合には、「担保として物件から回収する」ルートと、「買主に請求する」ルートの二本立てが用意されている、ということです。滞納が長く放置されにくい制度設計になっている、と言い換えてもよいでしょう。

売却しても売主の支払義務は消えない|「移る」のではなく「どちらにも請求できる」

ここが最も誤解されやすいところです。「滞納は買主に承継される」という説明を、売主の債務が買主に引っ越して自分は身軽になると読んでしまう方がいます。条文をもう一度読むと、そうは書かれていません。第8条は「特定承継人に対しても行うことができる」と定めているだけで、もとの区分所有者を免責する規定ではないのです。

実務でも、管理組合は旧所有者と新所有者のどちらにも請求できると考えられています。請求先が一つ増えるだけで、売主が抜けるわけではない、と理解しておくのが安全です。「売ってしまえば管理組合からの督促は止まる」という前提で動くと、引渡し後に督促状が届いて慌てることになります。

関連して、国土交通省のマンション標準管理規約が令和7年10月17日に改正された点にも触れておきます。改正後の第26条(承継人に対する債権の行使)は「管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」となり、改正前にあった「包括承継人及び」という文言が落ちました。同条のコメントは、その理由を「包括承継人が債務を承継するのは当然であるため、削除した」と説明しています。相続人が滞納を免れるようになった、という意味ではありませんので、相続したマンションを売る場合も同じ前提で考えてください。

重要事項説明の法定項目に「滞納額」という欄は書かれていない

「滞納があれば重要事項説明で必ず説明されるから、黙っていても買主に伝わる」と考えるのも危うい理解です。宅地建物取引業法第35条第1項第6号を受けた宅地建物取引業法施行規則第16条の2が挙げる区分所有建物の説明事項は、たとえば次のような書き方になっています。

  • 第六号 計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときは、その内容及び既に積み立てられている額
  • 第七号 当該建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額

お気づきのとおり、「滞納額」という言葉は条文には出てきません。実際の取引では、仲介会社が管理会社に照会して受け取る「重要事項調査報告書」に滞納の有無と金額の欄があり、そこから重要事項説明書へ転記されるのが通例です。法定項目そのものではなく、実務の運用によって買主に伝わっている、というのが正確なところです。

もっとも、伝わらなくてよいという話ではありません。宅建業法第47条第1項第1号は、取引条件その他で相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げない行為を禁じています。滞納額は買主が負担し得る金額そのものですから、ここに当たり得ます。売主の側から先に申告しておくのが、結果としていちばん揉めません。

請求されるのは元本だけではない|遅延損害金・弁護士費用・督促費用

標準管理規約(単棟型)第60条第2項は、納入されなかった金額について、管理組合が年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用等、督促および徴収の諸費用を加算して請求できると定めています(○の利率は各マンションの規約で埋めます)。

同条のコメントは、この請求について「請求しないことについて合理的事情がある場合を除き、請求すべきものと考えられる」とし、違約金としての弁護士費用等には司法書士費用も含まれるとしています。督促費用の例としては、配達証明付き内容証明郵便の郵便代と事務手数料、支払督促などの法的措置にともなう印紙代・予納切手代が挙げられています。

遅延損害金の利率についても、コメントは踏み込んでいます。管理費等は日々の維持管理に不可欠で、その滞納はマンションの資産価値や居住環境に影響し得ること、管理組合による回収は金融機関のような専門的なノウハウがなくコストが膨らみやすいことなどから、利息制限法や消費者契約法における遅延損害金利率よりも高く設定することも考えられるとしています。実際に年14.6%前後を定めている管理組合は珍しくありません。

規約に遅延損害金の定めがない場合は、民法第419条第1項により法定利率で計算します。法定利率は3年ごとに見直される変動制ですが、法務省の告示により令和8年(2026年)4月1日から令和11年(2029年)3月31日までは年3%のまま据え置きとなりました。まずは自分のマンションの規約に何%と書いてあるかを確認することが出発点です。

「5年で時効になる」を当てにしてはいけない

管理費の債権は、民法第166条第1項第1号により債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないと時効で消滅します。ここから「古い滞納は放っておけば消える」と考える方がいますが、売却を前提にするなら現実的ではありません。

理由は二つあります。ひとつは、時効は請求や承認によって更新されるため、督促を受けたり一部を支払ったりしていれば、5年が単純に進んでいないこと。もうひとつは、時効が完成する前に売買のほうが先に来ることです。滞納の存在は管理会社への照会で必ず表に出ますから、時効を待つ姿勢は、そのまま買主との交渉材料を相手に渡すことになります。

3か月以上の滞納は、およそ3割のマンションで起きている

滞納は特殊な事情のある物件だけの話ではありません。国土交通省が5年ごとに実施している令和5年度マンション総合調査(管理組合向け・有効回答1,589組合)によると、3か月以上の管理費または修繕積立金の滞納について、滞納がない管理組合は62.1%でした。裏を返すと、滞納住戸を抱える管理組合は29.7%(滞納住戸割合が0%超〜10%以下が29.2%、10%超が0.5%)で、残りは不明です。同調査は、平成30年度と比べて滞納が発生しているマンションの割合は増加しているとも指摘しています。

完成年次別に見ると、傾向はさらにはっきりします。

完成年次が古いマンションほど3か月以上の滞納がある管理組合の割合が高いことを示す棒グラフ
「滞納住戸割合10%超」と「0%超〜10%以下」の合計値。残りは「滞納がない管理組合」と「不明」。

築年の古いマンションほど滞納を抱えやすいのは、区分所有者の高齢化や賃貸化が進むことに加え、修繕積立金の値上げが重なる時期と重なるためです。同じ調査では、月/戸あたりの修繕積立金の額の平均は13,054円(駐車場使用料等からの充当額を含む総額では13,378円)で、いずれも前回調査から増加しています。管理費と合わせれば、毎月の負担は決して小さくありません。

手取りで比べる|完済・代金から精算・値引きの3択

では、滞納がある状態で売却を進めるとき、実際にはどう処理するのが有利なのでしょうか。売却価格3,000万円、管理費と修繕積立金の合計が月25,000円、滞納は10か月分で25万円という前提を置いて整理します(数値は説明のための仮定です)。

進め方引渡し時の扱い手取りへの影響(概算)実務上の注意
売買契約前に自己資金で完済する滞納なしの状態で重要事項説明へ−25万円(引渡し前に持ち出し)交渉材料を消せる。自己資金の余力が要る
決済時に売買代金から精算する決済の場で管理組合へ支払い、残額を受領−25万円(持ち出しなし)仲介・司法書士・管理会社との事前調整が必須
滞納を開示して価格に織り込む買主が負担する前提で値引き−25万円では収まりにくい買主は遅延損害金や手間も見込むため値引き幅が膨らみやすい

金額だけを見ると上の2つは同じですが、実務上おすすめしやすいのは2番目です。自己資金を先に出す必要がなく、かつ「決済時に精算済み」という事実を重要事項説明の段階で示せるため、買主の不安が価格交渉に転化しにくくなります。逆に3番目は、滞納額そのものより値引き幅が大きくなりやすいのが実情です。買主から見れば、金額が確定しないまま管理組合との関係を引き継ぐことになるからです。手取りの全体像は、マンション売却の諸費用・税金とあわせて計算しておくと判断しやすくなります。

引渡しまでに踏むべき手順

  1. 管理会社に残高を照会する。管理費・修繕積立金・駐車場等の使用料は項目ごとに分かれています。遅延損害金がすでに計上されているかも確認します。
  2. 管理規約で遅延損害金の利率と、弁護士費用等の請求条項を確認する。標準管理規約第60条第2項に対応する条文があるはずです。
  3. 精算方法を媒介契約の段階で仲介会社に伝える。決済で処理するなら、資金の流れを事前に決めておく必要があります。媒介契約の選び方は売却の注意点と媒介契約の解説もあわせてご覧ください。
  4. 重要事項説明書の記載を売主自身が確認する。滞納の有無と金額、精算の方法が書かれているかを見ます。
  5. 引渡し後、管理組合への区分所有者変更届を出す。届出が遅れると、引渡し後の請求が旧所有者に届き続けます。

なお、滞納の有無は管理状態を映す指標でもあります。管理が行き届いているかどうかは中古価格にも効いてくるため、資産価値が落ちにくいマンションの条件という観点からも、精算して売り出す意味はあります。

売却相談でよく出てくる疑問

滞納があると、そもそも売却できないのでしょうか。

売却自体が禁じられるわけではありません。ただし買主にとっては、引き継いだ後に管理組合から請求され得る金額ですから、必ず交渉の対象になります。決済で精算する段取りを先に組んでおけば、実務上は通常どおり進められます

買主が滞納分を支払った場合、後から私に請求が来ることはありますか。

本来の債務者は滞納していた区分所有者、つまり売主です。そのため、支払った買主が売主へ求償することは十分に考えられます。売買契約に精算の取り決めがあればそれに従うことになりますので、契約書の条項を確認してください。個別の可否や範囲は事情によりますので、争いになりそうな場合は弁護士等の専門家にご相談ください。

遅延損害金や弁護士費用まで、買主に請求されることがあるのですか。

標準管理規約第60条第2項は、遅延損害金や違約金としての弁護士費用等も規約にもとづく請求として位置づけています。区分所有法第8条の対象は第7条第1項の「規約若しくは集会の決議に基づき有する債権」ですから、元本だけで済むとは限りません。実際にどこまで及ぶかは、各マンションの規約の定めと個別の事情によります。

相続したマンションです。標準管理規約から「包括承継人」が消えたと聞きました。

令和7年10月17日改正の標準管理規約第26条から「包括承継人及び」の文言は削除されましたが、同条のコメントが述べているとおり、理由は包括承継人が債務を承継するのは当然だからです。相続人が滞納の支払いを免れるようになったわけではありません。相続した物件を売るときも、滞納の確認と精算は同じ手順で必要です。

競売や任意売却でも、買った人に請求が行くのですか。

区分所有法第8条の「特定承継人」には、競売で買い受けた人も含まれると解されています。競売物件の価格が相場より低くなる要因のひとつが、買受人が引き継ぐことになる滞納分です。任意売却の場合も、債権者・管理組合との調整のなかで滞納の扱いを決めるのが通常です。

隠すより、先に精算の段取りを組んだほうが手取りは残る

管理費・修繕積立金の滞納は、区分所有法第8条によって買主にも請求できる債権です。しかしそれは売主の義務が消えることを意味せず、遅延損害金や弁護士費用等まで及び得ます。重要事項説明の法定項目に「滞納額」という欄が書かれていない以上、買主に正しく伝わるかどうかは実務の運用しだいであり、伝わらなければ後日の紛争になります。

実際のところ、3か月以上の滞納がある管理組合は3割近くあり、築年の古いマンションでは4割を超えます。決して特別な状況ではありません。だからこそ、売り出す前に残高を確認し、決済での精算方法を決めておくという地味な段取りが、そのまま手取りの差になって返ってきます。値引き交渉の材料を一つ減らすことが、滞納への最も現実的な対処法です。

※本記事は2026年8月時点で確認した法令・公表資料にもとづいています。遅延損害金の利率や精算の取り扱いは管理規約によって異なりますので、詳細はお住まいのマンションの管理規約と管理会社にご確認ください。

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