相続登記の義務化とマンション売却|2027年3月31日の期限
2026年8月3日

親から相続したマンションを売ろうとしたときに、最初につまずくのが登記です。名義が亡くなった方のままだと、買主が見つかっても引き渡しまで進めません。
その相続登記が、2024年(令和6年)4月1日から法律上の義務になりました。しかもこの義務は、施行日より前に起きた相続にもさかのぼって適用されます。何十年も親名義のまま放置してきた物件も対象で、多くの方にとっての期限は2027年(令和9年)3月31日です。
この記事では、売却を前提にしたときに何をいつまでにやればよいのかを、法務省・国税庁の公表内容にもとづいて整理します。あわせて、検索するとよく見かける誤解を3つ取り上げます。
売却の前提として、相続登記は避けて通れない
相続登記とは、亡くなった方(被相続人)の名義になっている不動産を、相続した人の名義に変える所有権移転登記のことです。
ここを済ませていない状態では、売却の手続きが前に進みません。法務省も、相続した不動産を売却したり抵当権を設定したりする場合には相続登記が必要である、と明記しています。買主が住宅ローンを使うなら、金融機関は売主名義の物件に抵当権を設定するため、なおさら登記の完了が前提になります。
つまり、「義務だから」ではなく「売れないから」という理由で、売主にとって相続登記は必須の作業です。義務化はその期限を区切っただけ、と捉えるとわかりやすいでしょう。
期限は2本立て|「2027年3月31日」と「知った日から3年」
相続(遺言による取得を含みます)で不動産の所有権を取得した相続人は、自分のために相続が開始したことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法第76条の2第1項)。
ここで多くの方が引っかかるのが、施行日より前の相続の扱いです。義務化の施行日は2024年4月1日ですが、それ以前に開始した相続で登記が未了のものも対象になり、2027年3月31日までに登記が必要とされています(民法等の一部を改正する法律 附則第5条第6項)。
| あなたの状況 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2024年3月31日以前に、相続で取得したことを知った(登記は未了) | 2027年3月31日まで | 改正法 附則第5条第6項 |
| 2024年4月1日以後に、相続で取得したことを知った | 知った日から3年以内 | 不動産登記法 第76条の2第1項 |
| 遺産分割がまとまった(上記とは別に発生) | 遺産分割が成立した日から3年以内 | 不動産登記法 第76条の2第2項ほか |
「知った日」が起点なので、存在を知らなかった物件には義務が生じない
義務のスタートは相続開始日ではなく、その不動産を相続で取得したと知った日です。法務省のQ&Aでも、取得した不動産を具体的に知るまでは相続登記の義務はない、と説明されています。地方の実家や共有名義の土地など、存在自体を把握していなかった物件については、知った時点から3年を数えます。
遺産分割が終わったら、もう一度3年の期限が動き出す
見落としやすいのが、上の表の3行目です。遺産分割の話し合いがまとまった場合には、その成立日から3年以内に、分割内容にもとづく所有権移転登記を申請する義務が別に発生します。最初の3年をクリアすれば終わり、ではありません。
誤解その1|相続人申告登記をしても、そのままでは売れない
期限内に遺産分割がまとまりそうにない場合の受け皿として、2024年4月に相続人申告登記という制度が新設されました(不動産登記法第76条の3)。登記簿上の所有者の相続人であることを法務局に申し出れば、それだけで申請義務を果たしたとみなされます。
手続きの負担は確かに軽く、次のような特徴があります。
- 相続人のうち1人が単独で申し出られる(他の相続人の分をまとめて代理申出することも可能)
- 法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定する必要がない(提出書類が少なくて済む)
- 申出手続きに押印・電子署名が不要で、Webブラウザ上でも手続きできる
- 登録免許税がかからない
ただし、売主にとって決定的な制約があります。法務省は、相続人申告登記について「不動産についての権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、別途、相続登記の申請をする必要がある」と明記しています。
申告登記で登記簿に付記されるのは、申し出た人の氏名・住所などであって、誰がどれだけの持分を取得したかではありません。そのため、買主に所有権を移す前提が整わないのです。
あわせて押さえておきたい注意点が2つあります。ひとつは、遺産分割成立後の追加的義務は、相続人申告登記では履行できないこと。もうひとつは、みなし履行の効果は申し出た本人だけに及ぶことです。相続人全員が義務を果たしたことにするには、全員がそれぞれ申し出る必要があります(連名の申出書で複数人分をまとめることは可能です)。
結論として、相続人申告登記は「売却の準備」ではなく「期限を止めるための応急処置」です。売る意思が固まっているなら、ここに寄り道せず相続登記まで進めるほうが早く、費用も二重になりません。
誤解その2|過料10万円は「3年たてば自動で科される」ものではない
正当な理由なく申請義務を怠ると、10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法第164条第1項)。ただし、期限を1日過ぎた瞬間に請求書が届くような仕組みではありません。法務省が示している流れは次のとおりです。
- 登記官が義務違反を把握した場合、相当の期間を定めて登記を申請するよう催告する(催告書の送付)
- 催告の期限までに登記がされず、正当な理由も認められない場合、登記官が管轄の地方裁判所に通知する(不動産登記規則第187条第1号)
- 通知を受けた裁判所が要件を判断し、10万円以下の範囲で過料の額を決定する
しかも登記官が催告を行う端緒は限定されています。相続人が別の不動産について遺言や遺産分割にもとづく登記を申請した際、その遺言書・遺産分割協議書に他にも同じ人が取得する不動産が記載されていた——といった、職務上知り得たケースに限るとされています。
また、相続人が極めて多数で戸籍の収集に時間を要する場合、遺産の範囲などを相続人間で争っている場合、義務を負う人自身が重病である場合、DV被害などで避難を余儀なくされている場合、登記費用を負担する能力がない場合は、一般に「正当な理由」があると認められるとされています。
ここで大事なのは、この情報を「だから急がなくてよい」と読まないことです。売却するなら結局は相続登記が必要で、過料のリスクがあるかどうかは売主の判断軸になりません。過料の運用が慎重であることは、相続人が多くて時間がかかっている方にとっての安心材料であって、先送りの根拠ではないと考えてください。
誤解その3|登録免許税の免税が効くのは土地だけ。マンションは建物部分に必ずかかる
相続による所有権の移転登記の登録免許税は、不動産の価額(原則として固定資産課税台帳に登録された価格)の0.4%(1,000分の4)です。土地・建物とも同じ税率です。

相続登記を促す目的で、次の2つの免税措置が設けられています。適用期限はいずれも2027年(令和9年)3月31日までです。
- 相続により土地を取得した個人が、その相続登記を受ける前に亡くなった場合(いわゆる数次相続)に、その亡くなった個人を登記名義人とするために受ける登記
- 登録免許税の課税標準となる不動産の価額が100万円以下の土地に係る相続登記
マンションの売主が知っておきたいのは、この免税措置の対象は「土地」に限られる点です。区分所有マンションの専有部分(建物)の登録免許税は、免税措置では消えません。敷地についても、持分の取得であれば不動産全体の価額に持分割合を乗じた額で100万円以下かどうかを判定するため、該当するかどうかは物件ごとに異なります。
もうひとつ、実務で取りこぼしが起きやすいのが手続き面です。免税を受けるには、申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第1項(または第2項)により非課税」と記載する必要があり、記載がなければ免税を受けられません。ご自身で申請する場合はとくに注意してください。
なお、登録免許税の課税標準になる固定資産税評価額は、売却時の諸費用を見積もるうえでも起点になる数字です。土地の公的な価格の使い分けについては一物四価とは?公示地価・基準地価・路線価・固定資産税評価額の違いで整理しています。
親名義のまま放置していた物件は、2026年2月開始の証明制度で洗い出せる
「親が不動産を持っていたはずだが、どこに何があるか分からない」というケースへの対応として、所有不動産記録証明制度が2026年(令和8年)2月2日から始まりました(不動産登記法第119条の2)。特定の人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、登記官が一覧化して証明書として交付する制度です。
請求できるのは所有権の登記名義人本人、その相続人その他の一般承継人、およびその代理人です。全国どこの法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)でも、書面・オンラインのいずれでも請求でき、書面の場合は郵送請求もできます。
| 請求方法 | 手数料(検索条件1件につき1通あたり) |
|---|---|
| 書面請求(収入印紙で納付) | 1,600円 |
| オンライン請求・郵送交付 | 1,500円 |
| オンライン請求・窓口交付 | 1,470円 |
ただし、この証明書は「これで全部」と言い切れるものではありません。法務省自身が、氏名・住所等で検索する仕様上、抽出される不動産の網羅性には限界があると注意喚起しています。具体的には次の点に気をつけてください。
- 検索は氏名(名称)の前方一致かつ住所の市区町村までが一致、または氏名の前方一致かつ住所の末尾5文字が一致する人を抽出する仕様。登記簿上の住所が古いままだと、検索条件と合わず抽出されないことがある
- 検索対象は所有権の登記がされている不動産に限られる(表示に関する登記のみの不動産は対象外)
- 登記簿がコンピュータ化されていない不動産は抽出されない
- 該当する不動産がない旨の証明になった場合でも、手数料は返還されない
- 同姓同名の別人の不動産が抽出される場合もある
- 制度開始当初は混み合い、交付まで2週間程度かかる場合がある
相続登記の期限が2027年3月31日に迫っている物件を抱えているなら、証明書の取得日数も見込んでスケジュールを組んでおくと安全です。
また、2026年4月1日からは住所等変更登記も義務化されました。所有者の氏名・名称または住所に変更があったときは変更日から2年以内に登記が必要で、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象です(不動産登記法第76条の5、第164条第2項)。施行日より前の変更も対象で、その場合の期限は2028年(令和10年)3月31日です。売却の際は登記上の住所と現住所の一致も確認されるため、あわせて点検しておきましょう。
売却スケジュールから逆算した、いま取るべき動き
ここまでの制度を、売主の状況別に整理します。判断の分かれ目は「売る意思が固まっているかどうか」です。
| あなたの状況 | 取るべき動き | 理由 |
|---|---|---|
| 売ると決めている/相続人の意見も一致 | 相続人申告登記は使わず、遺産分割協議書をまとめて相続登記まで一気に進める | 申告登記では売却できず、後で相続登記をやり直す手間と費用が二重にかかるため |
| 売るかどうか決めていない/分割協議が長引きそう | 期限までに相続人申告登記で義務だけ止め、方針が決まった時点で相続登記へ | 単独で申し出ができ、登録免許税もかからない。ただし期限を止めるだけと理解しておく |
| 相続人が多数/遺産の範囲を争っている | 「正当な理由」に当たり得るが、単独でできる申告登記は先に済ませておく | 正当な理由の判断は個別事情によるため、自分でコントロールできる手当てを先に打つ |
売却まで見据えるなら、手取り(売却代金−諸費用−税金)の見通しも同時に立てておくと判断がぶれません。相続した物件の売却では、相続税を納めた場合の取得費加算の特例など、使える制度があるかどうかで手取りが変わります。詳しくはマンション売却と確定申告|譲渡所得税の計算方法と特例をご覧ください。
相続税の申告そのものについては、2024年1月1日以後に取得した分譲マンションの相続税評価に区分所有補正率が導入され、評価額の出方が変わっています。こちらはマンションの相続税評価が変わった|2024年からの区分所有補正率で解説しています。
相続登記と売却をめぐるQ&A
Q. 遺産分割がまとまっていませんが、買主が見つかりました。先に売買契約だけ結べますか?
A. 遺産分割が済んでいない不動産は、相続人全員が法定相続分の割合で取得した共有状態にあります。売却は共有者全員の合意が前提になるため、一部の相続人だけで契約を進めることはできません。引き渡しまでには相続登記も必要です。買主を待たせる期間が読めない場合は、契約前に相続人間の合意形成を優先してください。
Q. 相続人申告登記を済ませてあります。このまま売却の手続きに進めますか?
A. 進めません。法務省が、売却や抵当権設定をする場合には別途相続登記が必要であると明記しています。相続人申告登記は権利関係を公示する登記ではないためです。売る方針が固まった段階で、遺産分割の内容にもとづく相続登記を申請してください(この登記は、遺産分割成立日から3年以内という別の義務にもなります)。
Q. 兄が相続する予定の実家です。私にも登記の義務がありますか?
A. 遺産分割が済んでいない段階では、あなたも法定相続分で共有している状態なので義務があります。ただし、遺産分割が調ってその不動産の所有者がお兄さん1人になれば、あなたの義務はなくなります。分割が長引きそうなら、あなた自身が単独で相続人申告登記をしておけば義務を果たしたとみなされます。なお、遺産分割の結果としてお兄さんが取得した場合、その後の登記義務はお兄さんが負います。
Q. 登録免許税の免税措置は、マンションでも使えますか?
A. 使える可能性があるのは敷地(土地)部分だけです。免税措置の対象は土地に限られるため、専有部分(建物)の0.4%は残ります。敷地の持分については、不動産全体の価額に持分割合を乗じた額が100万円以下かどうかで判定します。該当しそうな場合でも、申請書に根拠条項を記載しないと免税は受けられないため、事前に管轄の法務局に確認することをおすすめします。
Q. 親が持っていた不動産に漏れがないか心配です。どう確かめればよいですか?
A. 2026年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度を使うと、登記記録上その方が所有者となっている不動産を一覧化した証明書を請求できます。ただし氏名・住所での検索仕様上、網羅性には限界があります。登記簿上の住所が古い物件は抽出されないことがあるため、過去の氏名・住所も検索条件に加えて請求する、市区町村の名寄帳(固定資産課税台帳)もあわせて確認する、といった補完を検討してください。
結論|売るなら、期限を待たずに相続登記まで終える
相続登記の義務化は、売主にとっては「新たな負担が増えた」話ではありません。売却するなら以前から必要だった手続きに、期限が付いただけです。過去の相続については2027年3月31日、それ以降に知った相続については知った日から3年、そして遺産分割が成立したらそこから3年——この3つの期限を押さえておけば十分です。
そのうえで、売主が実際に判断すべきことは1つに絞られます。売る意思が固まっているなら、相続人申告登記に寄り道せず、遺産分割から相続登記まで一気に進めること。決まっていないなら、期限内に申告登記で義務だけ止めて、方針が固まってから相続登記に移ることです。
相続人の人数や戸籍の収集量によっては、必要書類をそろえるだけで数か月かかることも珍しくありません。売却の時期を検討している段階から、登記の準備を並行して始めておくと安心です。手続きの具体的な進め方は、管轄の法務局(登記手続案内は予約制)や司法書士にご相談ください。制度の詳細や様式は改正されることがあるため、最新の情報は法務省・法務局・国税庁の公式サイトでご確認ください。








