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相続マンションに空き家特例は使えない|代わりに使える控除

2026年8月6日

相続したマンションと一戸建ての税制の違いを比べるイメージ

親が住んでいた家を相続して売るとき、多くの記事が「空き家の3,000万円特別控除が使えます」と案内しています。ところが相続した物件が分譲マンションだった場合、この控除はそもそも対象外です。要件のひとつに「区分所有建物登記がされている建物でないこと」があるためで、築年数や空き家期間をどれだけ満たしても覆りません。

この記事では、まず対象外になる理由を国税庁の要件で確認し、そのうえで相続したマンションで実際に使える控除は何かを、手取りベースで比べられる形に整理します。

相続した分譲マンションは、空き家の3,000万円控除の対象から外れる

正式名称は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。相続または遺贈で取得した被相続人の住まいとその敷地を、平成28年4月1日から令和9年(2027年)12月31日までの間に一定の要件で売った場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(国税庁 タックスアンサー No.3306・令和7年4月1日現在法令等)。

この特例が使える「被相続人居住用家屋」には、次の3つの要件がすべて求められます。

要件内容分譲マンションの場合
建築時期昭和56年5月31日以前に建築されたこと古い物件なら満たしうる
建物の種類区分所有建物登記がされている建物でないこと満たせない(=ここで対象外)
居住状況相続開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったこと一人暮らしなら満たしうる

判定するのは築年数ではなく「区分所有建物である旨の登記」

根拠となる租税特別措置法35条5項2号は、対象家屋を「建物の区分所有等に関する法律第一条の規定に該当する建物でないこと」と定めています。分譲マンションはこの区分所有法1条にいう建物そのもので、専有部分ごとに区分所有建物としての登記がされています。したがって「昭和56年5月31日以前に建てられた古い分譲マンション」でも、空き家特例は適用できません。

確定申告の添付書類として、登記事項証明書等で「区分所有建物登記がされている建物でないこと」を明らかにするよう求められている点からも、判定が登記の状況で機械的に行われることが分かります。売主の側で「実質は一戸建てのように使っていた」と説明しても、結論は変わりません。

対象外になるのは、この制度が「一棟の空き家」を減らすための措置だから

この特例は税制上の優遇であると同時に、国土交通省が所管する空き家対策でもあります。制度の狙いは、耐震性の低い古い家屋が持ち主不在のまま放置されるのを防ぎ、耐震改修か取壊しを促すことにあります。実際、適用を受けるには家屋が耐震基準に適合しているか、取り壊されていることが原則として必要です。

分譲マンションの専有部分だけを耐震改修することも、取り壊すこともできません。制度が想定している「一棟の家屋をどうにかする」という行為が、区分所有では成り立たない——これが、区分所有建物が外れている実質的な理由です。裏を返せば、相続したマンションは空き家特例の代わりになる制度を探すべき、ということになります。

相続したマンションに残っている3つの道

空き家特例が使えなくても、譲渡所得の負担を下げる方法がなくなるわけではありません。売主が現実に選べるのは、次の3つです。

選択肢効き方期限マンションでの可否
相続税の取得費加算
(措法39)
納めた相続税の一部を取得費に上乗せ相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年(=おおむね相続開始から3年10か月)使える(相続税を納めた人に限る)
自宅を売ったときの3,000万円控除
(措法35条1項)
譲渡所得から最高3,000万円を控除住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで使える(相続人自身が住んだ場合)
空き家の3,000万円控除
(措法35条3項)
譲渡所得から最高3,000万円を控除相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ令和9年12月31日まで使えない(区分所有のため)

道1|相続税を納めたなら、取得費加算を3年10か月以内に

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(国税庁 No.3267)は、相続や遺贈で取得した財産を一定期間内に売ったとき、その人が納めた相続税額のうち一定額を取得費に加算できる制度です。取得費が増えれば譲渡所得が減り、そのぶん税額が下がります。

要件は3つで、①相続や遺贈で財産を取得したこと、②その人に相続税が課税されていること、③相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること、です。相続税の申告期限が相続開始を知った日の翌日から10か月なので、実務的な期限は「相続開始からおよそ3年10か月」と覚えておくと管理しやすくなります。

注意したいのは、相続税がかからなかった場合はこの特例も使えない点です。基礎控除内で申告不要だったケースでは効果はゼロなので、道2の検討に進むことになります。加算できる金額は、納めた相続税額のうち売った財産に対応する部分で、譲渡益を超える場合は譲渡益が上限です。金額は人によって大きく異なるため、相続税の申告書を手元に用意してから確認してください。相続したマンションの評価額そのものは2024年から計算方法が変わっているため、マンションの相続税評価と区分所有補正率の解説もあわせて確認しておくと、納付額の背景がつかめます。

道2|相続人自身が住まいにしてから売る(ただし控除目的の入居は認められない)

相続したマンションに相続人が実際に住み、その後に売ると、自宅を売ったときの3,000万円特別控除(国税庁 No.3302)の対象になります。区分所有かどうかは問われないため、マンションでも使えます。住まなくなってから売る場合も、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までなら適用できます。

ただしこの特例には明確な適用除外があり、「この特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋」や、一時的な目的で入居したと認められる家屋は対象外と定められています。節税のために形だけ住民票を移す、といった使い方は想定されていません。転勤や住み替えなど、実際に生活の本拠を移す事情があるかどうかが前提になります。控除の詳しい仕組みはマンション売却の確定申告と3,000万円控除の記事にまとめています。

道3|実家が戸建てなら空き家特例が本命|2024年からの2つの拡充

相続した物件が区分所有登記のない一戸建てであれば、空き家特例が最も効きます。2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡では、次の2つが変わりました。

相続人が3人以上なら、控除額は1人あたり2,000万円に下がる

令和6年1月1日以後の譲渡で、被相続人居住用家屋とその敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合、控除額は3,000万円ではなく2,000万円になります。兄弟3人で実家を相続して共有のまま売る、という典型的なケースが直撃するため、遺産分割の段階で押さえておきたい変更です。

買主が引渡し後に耐震改修・取壊しをする形でも認められるようになった

従来は、売主が譲渡前に耐震改修を済ませるか取り壊しておく必要がありました。令和6年1月1日以後の譲渡では、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に耐震基準を満たすこととなった場合、または家屋の全部の取壊し等が行われた場合も対象に加わっています。売主が先に費用を負担しなくてよくなった一方で、実現には買主の協力が欠かせません。国土交通省も、トラブル防止の観点から売買契約に特約等を設けることを推奨しています。

あわせて注意したいのが売却代金1億円以下という上限の判定方法です。この判定は自分が売った分だけでは行いません。相続の時から、この特例を適用して売却した日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に、分割して売った部分や他の相続人が売った部分も合算して判定されます。あとから合計が1億円を超えると、その売却の日から4か月以内に修正申告と納税が必要になります。共有物件を別々に売る予定があるなら、必ず事前に相続人間で情報を共有してください。

見落とされやすい上限|同じ年に自宅と空き家の両方に当たっても、控除は合計3,000万円

「自宅を売って3,000万円、相続した実家を売って3,000万円、合わせて6,000万円」と読める解説を見かけますが、これは誤りです。

租税特別措置法35条1項は、控除を「その年中に該当することとなった全部の資産の譲渡」に対して適用すると定めています。そして同条3項は、空き家特例の対象となる譲渡を「第一項に規定する居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなして、同項の規定を適用する」としています。つまり両者は別枠ではなく同じ枠に入るため、同じ年に自宅と相続空き家の両方を売っても、控除できるのは合計で3,000万円までです。売る年をまたげるなら、年をずらすほうが有利になる場合があります。

空き家特例と自宅の3,000万円控除の上限額を比べた棒グラフ
空き家特例は令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上なら2,000万円。自宅と空き家の両方に該当しても、同じ年なら控除は合計3,000万円が上限。

手取りで比べる|3,000万円で売った場合の税額(当社試算)

親が一人で住んでいた分譲マンションを、相続後に3,000万円で売ったと仮定します。取得当時の資料が残っておらず概算取得費(譲渡価額の5%=150万円)を使い、譲渡費用は仲介手数料の上限相当106万円、所有期間は被相続人の期間を引き継いで長期譲渡(税率20.315%=所得税15%・復興特別所得税は所得税額の2.1%・住民税5%)とします。

使える制度課税される譲渡所得税額の目安差額
何も使わない2,744万円約557.4万円
取得費加算(相続税のうち120万円が対応すると仮定)2,624万円約533.1万円約24.4万円の軽減
相続人が住んだうえで自宅の3,000万円控除0円0円約557.4万円の軽減

当編集部が国税庁の税率と計算式にもとづいて試算した概算です(諸費用・住民税の納付時期は考慮していません)。ここで見えるのは、取得費加算の効き方は納めた相続税額しだいで、控除ほどの決定打にはなりにくいということです。相続税が発生していない、かつ相続人が住む予定もないという場合は、税負担を下げる手段が限られます。売却価格を1万円積み増すほうが、手取りへの影響は大きいという判断もあり得ます。

売る前に確認する3か所

制度の可否は、次の3つを見れば売主自身でおおむね判断できます。

1つ目は登記事項証明書です。表題部に敷地権や専有部分の表示があれば区分所有建物で、空き家特例の対象外と分かります。売却の前提として相続登記も必要になるため、相続登記の義務化と2027年3月31日の期限もあわせて確認してください。

2つ目は相続税の申告書です。申告して納税していれば取得費加算の対象になります。申告していなければ、この道は使えません。

3つ目は相続開始日です。取得費加算はおおむね3年10か月、空き家特例(戸建ての場合)は3年を経過する日の属する年の12月31日という期限があり、売却活動に要する期間を差し引くと、思ったより猶予はありません。期限のある制度を使うつもりなら、売り出しは相続開始から2年以内に始めるのが安全です。

相続した実家の売却で寄せられやすい疑問

Q. 親が一人で住んでいた分譲マンションです。築50年と古いのですが、空き家特例を使えませんか。

使えません。昭和56年5月31日以前の建築という要件は満たしていても、区分所有建物登記がされている建物は対象から外れます。3つの要件はすべて満たす必要があるため、1つでも欠けると適用できません。

Q. 区分所有登記がされている二世帯住宅は対象になりますか。

区分所有建物登記がされていれば、外観が一戸建てでも対象外です。判定は登記の記録で行われるため、まず登記事項証明書で現況を確かめてください。登記の状況が特殊で判断に迷う場合は、確定申告の前に所轄の税務署に確認することをおすすめします。

Q. 親が老人ホームに入所したまま亡くなりました。空き家特例の対象になりますか。

戸建てであれば、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど特定の事由による場合で、一定の要件を満たせば対象になり得ます。ただし国土交通省は、親族の家や一般の賃貸住宅に転居して亡くなった場合はこの特例を受けられないと明示しています。なお、物件がマンションであれば、老人ホームの要件を満たしても区分所有である時点で対象外です。

Q. 取得費加算と空き家特例は、両方まとめて使えますか。

併用できません。租税特別措置法35条3項は、空き家特例の対象譲渡から「第三十九条(取得費加算)の規定の適用を受けるもの」を除いています。国税庁も適用要件として、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例など他の特例の適用を受けていないことを挙げています。戸建てを相続した場合は、控除額と加算額を試算して有利なほうを選ぶのが実務の流れです。

Q. 相続したマンションをいったん賃貸に出してから売る場合、扱いは変わりますか。

取得費加算は、期限内の譲渡であれば賃貸に出していても使えます。一方、自宅の3,000万円控除は相続人自身が居住していたことが前提なので、賃貸だけで終われば使えません。賃貸に出す判断は、家賃収入と、期限のある特例を手放すことの比較で考えてください。

判断の順番をひとつにまとめる

相続した物件を売るときは、次の順で見ていくと迷いません。

まず登記事項証明書で区分所有かどうかを確認します。分譲マンションなら空き家特例は最初から候補から外れるので、そこで悩む時間をなくせます。次に相続税を納めたかどうかを確認し、納めていれば取得費加算を相続開始からおよそ3年10か月以内の売却で使えるよう逆算します。相続税がかからず、相続人がその部屋に住む予定もあるなら、自宅の3,000万円控除が最も効きます。ただし控除だけを目的とした入居は認められません。

そして、相続した物件が区分所有登記のない一戸建てだった場合は、空き家特例が最有力です。令和9年12月31日という適用期限、相続人3人以上なら2,000万円になる点、1億円の判定に他の相続人の売却分も含まれる点を、遺産分割の段階から相続人全員で共有しておいてください。

税額の最終的な判断は、相続税の申告内容や取得費の資料によって変わります。制度の可否をここで絞り込んだうえで、金額の確定は税理士や所轄の税務署に確認する——この順番が、いちばん無駄がありません。最新の要件は国税庁および国土交通省の公式サイトでご確認ください。

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